LOG2
□Libra
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++zodiac++
任務の説明を聞いている最中に、それは起こった。
「……なァに泣いてンだリキッド」
初め、リキッドにその自覚は無かった。
ハーレムの訝しげな声で初めて自分が涙を流していることに気付いたが、頬に手をやりその指先に涙の粒が触れても実感は無い。
「ぇ……あ、れ……?」
そのうちガクガクと震え出す体。
訳が分からず止めるために自分の腕で掻き抱くものの、治まるどころかますます激しくなるばかり。一服盛られたかとすら思えるその症状はしかし、他のメンバーも同様に驚いていたために可能性は消えた。
「――怖いか?」
「こわ、い?」
そんな中、ハーレムだけが冷静に。
リキッドの前に立ち静かに語りかける。
「任務が、人殺しが、怖いのか」
「ぁ、あ……っ」
応えるように大きくなる震え。既に歯の根は合わずガチガチと音を立てていて、舌を今にも噛みそうだった。お前ら少し外せ、そんなハーレムの声で部屋を出てゆく他の気配。
他者の移動する僅かな空気の流れに、吐きそうになって体をくの字に折った。
「構わねェ、吐いちまえ」
背中を擦られる。そうされて何度か嘔吐きはしたしたものの、胃が引っくり返るような気味が悪い音を立てるばかりで結局何も出はしなくて。
「はァッ! あ、ぁぐ、」
「少しバランスが崩れてるだけだ。体と、」
ココの――そう言って、指先が触れたのは胸の真ん中。忙しなく上下する中央に。
「俺にも覚えがある。お前ほどじゃあ無かったがな」
今日はもういい、休んでいろと。言いながら体ごと包み込んでくれた腕に、しかし、決して縋りはせず。目を見据えながら、震える顎を叱咤しながらたった一言。
「大丈夫」と答えた。
「そォか」
「は、い」
背中に回された腕が、その力強さが。
狂ったバランスを支える要なのだと。そう思わせてくれるから。
きっと大丈夫。
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7月:天秤座:バランス