桜花舞闘

□黎明録〜第四幕・稽古と見回り〜
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『土方さん、入るね!!』


「雅か。
どうかしたか?」


私が襖を開くと、土方さんは目を見張る。


「斎藤……!斎藤じゃねえか!
何だよ、随分久し振りだな。」


「ご無沙汰しています、土方さん。」


「そう、かしこまるなって。
おまえは相変わらずだな。」


『そうだよ。
さっき外で会って!』


「雅、興奮し過ぎだ。」


「まあ、雅の気持ちも分かるぜ。
特に一番、こいつが心配してたんだからな。」


土方さんは一に訊ねる。


「今まで、どうしてたんだ?
道場の方に、ばったり来なくなったから心配してたんだぜ。」


「それは……。」


一が目を伏せたのを見て、慌てて間に入る。


『はっ、一も色々あったんだよね?
疲れてたりしない?』


「大丈夫だ。
……ご心配おかけして、申し訳ありません。
雅も、すまなかった。」


『いやいや。
大事な仲間だもん。
心配しないわけないじゃんか!!』


土方さんも小さく頷く。


「しかし、わざわざここに来てくれたってことは、おまえも浪士組に……?」


「そのつもりです。
この京で、俺の刀がどれだけ役に立つかはわかりませんが。」


「いや、おまえが来てくれて助かったぜ。
今は、腕の立つ奴が一人でも欲しい時だからな。」


「はい。
京の治安維持を担うとなれば、それなりの数が必要となりますゆえ。」


「ああ。
後ろ楯が何もない浪士組に、入ろうなんて物好きな奴は少ねえしな。
人手も資金も足りなすぎるくらいだ。」


『これからは一も一緒か……。
賑やかになるなぁ。』


「俺が入ったところで、あまり変わらないと思うが……。」


『私の気分だよっ、私の!』


すると、土方さんが訊ねる。


「ところで、あいつらにはもう会ったのか?」


「あいつら、というと……。」


「試衛館の連中に決まってるじゃねえか。」


「彼らも……ここに来ているのですか。」


「おう、もちろんだ。
近藤さんも山南さんも、総司も新八も、原田も平助も源さんも一緒だぜ。」


「雅がいたので、まさかとは思っていましたが……。」


ふと、龍之介が立ち上がる。


「土方さん、俺が奴らを呼びに行って来ようか。」


『龍之介、いたの?』


「いたよっ!失礼な奴だな。」


「龍之介、頼む。」


「あっ、ああ。」


龍之介が部屋を出ようとした時、外から総司や平助、左之や新八が入ってくる。


「雅はいつも通りとして。
珍しく、土方さんのはしゃぎ声が聞こえたと思ったら……一君じゃない。」


「久し振りだな〜、元気だったか!?
まさか、一君も京に来てるとは思わなかったよ!」


総司と平助が一に詰め寄る。


「おまえ、今までどうしてたんだよ?
どっかで剣術修行でもしてたのか。」


「……色々と込み入った事情があってな。」


「よくここがわかったな?
どこかで、オレ達のことを聞いたのか?」


「浪士組の話は、この京にも届いていた。
まさか、あんた達が参加しているとは思わなかったが。」


『本当に一が来てくれて嬉しいよ!
一もいれば、浪士組は無敵だね。』


土方さんの部屋は、いっきに賑やかになる。


「ねえ、一君。
久し振りに会ったんだし……手合わせしない?
君がどれくらい強くなってるのか、見てみたいし。」


「……よかろう。」


すると、土方さんは総司に釘を刺す。


「……総司。
斎藤と手合わせすんのはいいが、程々にしておけよ。」


「わかってますって。
とはいっても、一君が相手ですからね。
怪我しない保証なんてありませんけど。」


『じゃあ、私が見に行くよ。
危なくなったら、私が止めればいいんだしね。』


「頼んだぜ。」


土方さんは、一に向き直る。


「……斎藤、夜になったらまたここに来てくれ。
色々、積もる話もあるしな。」


「……はい、わかりました。」


「それから、新八、原田、平助。
おまえらどうせ暇なんだろ?
これから、京の街の見回りをして来い。」


「へっ?暇って……俺達、これから出かけようと思ってんだけど……。」


「出かける先はどこだ?
祇園か?それとも島原か?」


『色町限定なのね……。
まあ、万更でもなさそうだけど。』


新八は必死の言い訳をしているが、酒目的なのは確実だろう。
すると、平助は困った表情で訊く。


「そ、それより、勝手に見回りなんてしてもいいのか?
許しももらってねえのに。」


「今後、どこの藩に後ろ盾になってもらうにせよ、手柄を立てておいて損することはねえ。
京の人間を困らせてる不逞浪士をこんだけ捕まえたって実績がありゃ、給金の請求だってやりやすくなるしな。」


「なるほど……。
そういうもんなのか。」


「んじゃ、外出ついでにちゃちゃっと見回って来るか。」


私は三人に言う。


『じゃあ、龍之介も連れてってあげて。』


驚いた表情をした龍之介に、私は笑みを返した。
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