桜花舞闘

□黎明録〜第四幕・稽古と見回り〜
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朝から、壬生寺の境内で稽古をしていた。
試衛館時代は、稽古の時間に気を遣うことなど無かった。
しかし、今は初心者優先に使わしているため、朝くらいしか出来ないのだ。


『さて、帰るか。』


「雅か?」


『龍之介。』


龍之介の顔に、真新しい痣を見つける。


『また、芹沢さんが……。』


「気にしないでくれよ。
別に雅が悪いわけじゃないんだしさ。」


そうは言うも、日に日に痣が増えていくのを見ているのは、気分の良いものではない。


『そういえば、龍之介はどうかしたの?』


「そうだ。
芹沢さんに酒を買っておけって言われたんだが、京の地理はわからないし。
困ってたとこなんだ。」


『……ごめん。
私も、まだ詳しくないの。』


「いや、気にしないでくれ。
そうなると、これからどうするかな。」


すると、龍之介が八木邸の入口に目をやる。


「ん?あれは……。」


そこに立っていたのは、黒一色の着物に、白い襟巻きをした男だった。


『あれは……まさか、一!?』


一もこちらに気づいたようで、こちらを振り向く。


「雅。」


『一じゃない!
久しぶり。
元気にしてた?』


「俺は変わりない。
あんたこそ、元気そうで何よりだ。」


のけ者にされていた龍之介が、一を指差して訊ねる。


「この人、雅の知り合いか?」


『うんっ。
試衛館の時からの仲間だよ。』


「斎藤一だ。
江戸にいた頃、近藤さんや土方さんに世話になっていた。」


『本当に一だよね?』


私は思わず飛びつく。


「なっ…ちょっと離れろ。」


『あっ、ごめんね。
稽古の後だったから、汗臭かったよね。』


「いや、そういうわけではないが……。
その、あんたのそういった香りも、俺は嫌いじゃないのだが……。」


『そうだ、土方さんの部屋に案内するよ!』


私は一の腕を掴んで歩き出す。
久しぶりの再会に、土方さんも喜んでくれるんじゃないかと、期待して。


黎明録〜第四幕・稽古と見回り〜
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