桜花舞闘

□黎明録〜第二幕・犬と女〜
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京に着いて数日、やっとここにも慣れてきた。


『そういえば、あの人……。』


ふと思い出したのは、来る時に芹沢さんに拾われた青年。
確か、一週間以上寝ているはずだ。
心の蔵は動いていたから、死んだわけじゃないはずだが。


『もうっ。
芹沢さん、勝手が多いし……。』


「同感だよ。」


『総司。』


後ろから抱きついてきたのは、試衛館からの仲間である【沖田総司】。
剣の腕は確かだが、性格においては多々問題がある。


『抱きつくなよ、暑苦しい。』


「今、二月だよ。
僕は寒いから、人肌が恋しいんだよ。」


『知るか。
衆道と間違われても、俺は知らねえからな。』


そう、私は女だ。
だが、この浪士組のことを考えると、男装した方がいいと考え、袴を履いている。


「雅となら、衆道と間違われても良いけどな。
むしろ、間違われたほうが良い。」


『俺が困る。』


「……その【俺】って、何か嫌なんだけど。
それに、その口調も。」


『知るかよ。』


すると、井戸の横に人影が見える。


『見慣れない人だな。』


「…………。」


『総司?』


総司は青い髪の青年の後ろに立つ。


「そこ、どいて。邪魔だよ。」


次の瞬間、青年を突き飛ばした。


「うわっ……!」


『ちょっ、総司っ!?』


青年は尻餅をつくと、総司を睨む。


「な、何なんだあんたは!?
何しやがる!!」


「【何なんだ】って……随分な挨拶だね。
人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないの。」


「何言ってやがる!
俺をいきなり後ろから突き飛ばしたのは、あんただろうが!!」


「そんな所に、ぼけっと突っ立ってる方が悪いんだよ。
この井戸は、君一人の物じゃないんだから。」


別に使う予定も無かったはずなのに、お前は何を言ってるんだ。


「顔を洗ってたことぐらい、見りゃわかるだろうが!
俺が終わるまで、後ろに並んで待てばいいだけのことじゃないか!」


「僕が君に気を遣ってあげなきゃならない理由なんて、どこにもないし。」


「何だって…!?」


「何?
そんなに気に入らないなら、剣で決着つけようか?
腰に、刀差してるみたいだし。」


流石に、そろそろ総司を止めないと、土方さんと山南さんに怒られかねない。
そう思った私は、間に入ることにした。


『総司。
そうやって、人で遊ぶのは止めろ。』


「遊んでなんかないよ。」


『遊んでるだろ。
八木邸の客人とかだったら、困るのは俺達だけじゃねえ。』


「まったく、桜宮君の言う通りです。

……沖田君、その辺にしておいたらどうですか。
あまりおいたが過ぎると、また土方君の雷が落ちることになりますよ。」


振り向くと、山南さんが立っている。


「おいたって……人聞き悪いですね、山南さん。
最初に絡んできたのは、彼の方ですよ。」


「そう仕向けたのは、君でしょう。
見ていなかったと思うんですか?

ようやく京に着いて、浮き足立っているのはわかりますが……。
浪士組の評判を落とすような行動は控えるように。」


「……やれやれ、手厳しいなあ。
別に、浮き足立ってるわけじゃないんですけどね。」


確かに、浮き足立ってなくても、総司ならやるな……。
と、ついつい納得してしまった。


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