桜花舞闘

□黎明録〜第一幕・上洛〜
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私達は、江戸の試衛館から京の都を目指し、山道を歩いていた。


『…まったく。
こんな所で足止めを食うなんて…。』


「まあまあ、仕方ないさ。」


『近藤さん。
ちょっと、甘すぎない?
あの人、やりたい放題しすぎじゃない?』


用を達しに行ったはずの芹沢さんは、いつになっても帰ってこない。


「まあ、そうそう焦っても仕方ねえさ。」


『土方さんまで…。』


土方さんに言われて、私は黙る。

すると、芹沢さんが肩に人間を乗せて歩いてきた。
腰巾着の新見さんが、芹沢さんの所へ駆け寄っていく。


「芹沢先生!お帰りなさいませ。
お戻りが遅いので、心配しました。」


「なに、途中で思わぬ拾い物をしてな。」


「拾い物……?」


「おい平間、こいつを京まで背負って行け。」


「はっ……?」


芹沢さんは、背中の人間を平間さんに投げつけた。


「わっ…!
だ、旦那様、この方は一体…。」


平間さんも芹沢さんに付き合わされて、いつも大変だなと思う。

すると、山南さんが芹沢さんに意見する。


「お待ちください。
同行者を増やすのなら、我々に一言相談があって然るべきだと思いますが。」


「同行者ではない。
薄汚れた野良犬を一匹拾っただけだ。
いちいち相談などしていられるか。」


「ですが……!」


すると、近藤さんが笑みを浮かべながら言う。


「まあまあ、いいじゃないか山南君。
このまま彼を放っておけば、明日を待たずに飢えて死んでしまうぞ。
上様をお守りする立場の俺達が、困っている人を見殺しにするわけにはいくまい。

……トシも、そう思うだろう?」


「……別に、俺はどうでもいい。
俺達が何を言っても聞かねえんだろうしな。」


そう言う土方さんの目は、芹沢さんを睨み付けていた。


「……まあ、近藤さんや土方君がそう言うのであれば、仕方ありませんが…。」


私は土方さんに小声で尋ねる。


『いいの?
もしかしたら、芹沢さんが無理矢理……。』


「あの人でも、そこまではしねえよ。
それに、近藤さんが見捨てるのに賛成するとは思えないしな。」


すると、近藤さんが笑顔で周りに言う。


「京まで、後少しです!
気合を入れ直して、進むことにしましょう。」


「「「「「おう!」」」」」


近藤さんの一言で、周りの士気は高まる。


『やっぱり、近藤さんは凄い……。』


数歩先を歩いていた土方さんが振り返る。


「雅、置いてくぜ。」


『ごめんなさいっ!』


私は慌てて、近藤さんと土方さんの横まで走った。
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