桜花舞闘

□黎明録〜第五幕・警護〜
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『馬鹿であろう。』


私の前に立っているのは、女が道場に来ることを良く思わない、試衛館の門下。


『その程度の腕で、私に勝とうなぞ。
【女ごとき】に負けるとは、貴様はなんて弱いんだ。』


そうだ。
この時は、すぐにキレて罵る癖があったんだ。


『また、気が向いたら呼べばいいんじゃないか?
ふっ……女に負ける恥をかきたくないなら別だが。』


この後、私は木刀で左腕を打たれるんだっけ。


「雅!!」


『……っ!』


私の木刀が宙を舞う。
この時は、不意討ちすら避けれなかったんだな……。

総司の声がする。
木刀が正面に振り下ろされる。


『だめだ……。』


そうだ、駄目なんだ。
だって、その一撃を受けるのは……。


「てめえ、何してやがる。
近藤さんがいないからって、得物も持ってねえ奴に、木刀振り下ろす奴がいるか。」


目の前に立ってるのは、土方さんで。
右腕を押さえながら、振り向いて。


「大丈夫か、雅。」


大丈夫かは、こっちの台詞だって……。


「お前、腕は……。」


『私は大丈夫だよっ!
それよりも土方さん……なんで。』


「総司の声が聞こえて、道場覗いたら、またこれだ。
あんまり、相手を挑発するんじゃねえよ。」


『そんなっ……。』


「自分は大切にしろ。」


『それは……私が女だから?』


「はぁ……。
また、それかよ。
んなわけ、ねえだろ。

お前は、すぐに自分をないがしろにするから、心配になるんだよ。
女だとか、抜きでな。」


土方さんの手が、私の袖を捲る。
そんなことしなくても、あのくらいの打ち身なら、一瞬で……。


「音だけだったみたいだな。
それじゃあ、俺は部屋に戻るから……。」


『土方さん、腕は!?』


「こんなもん、どうってことねえよ。
竹刀も握れるしな。」


そういう土方さんの腕は、着物越しでも分かるくらい腫れていた。


「本当に大丈夫だったの?」


『私はね。
それよりも……。』


「あの人、本当に意地っ張りだよね。」


その時、思ったんだ。
絶対に強くなろう。

これは、自分の不思議な力を隠すためじゃない。
あの人に迷惑をかけないために。
あの人を守れるように。


そのためだけに、強くなりたい。


――――――――――――


目の前には天井。
右側には袴。
左側には刀。

今度は間違いなく、私の部屋だ。


『少し早いな。
まだ明け六つまでは時間が……。』


懐かしい夢を見た。
やはり、今のままでは駄目だ。
もっと強く……。


『私にあるのは、この身体と力……。
それだけだから。』


私は、あの人の剣であり、盾でありたい。
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