短編

□誰もいない廊下で
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あれだ。
6時間目の体育が終わり、原田先生の長話をすり抜け、教室の制汗剤祭りに顔をしかめた私。
その後、何の不幸か分からないが、土方先生に手伝いを強いられ、気づくと二時間ほど経っていた。

これは新手の、教師によるイジメか何かだろうか。


『……最悪。』


これは、貴重な放課後の時間を奪われたことに対してだけではない。
いや、あながちハズレではないのだが……。


『せっかく、一と放課後デートだったのに……。』


風紀委員、斎藤一。
私の彼氏なのだが、彼女の私にまで失点を与えてくれる、仕事熱心すぎる人だ。

自分の仕事以外にも手を出すため、ほとんど彼の休みはない。
それが、今日は珍しく休みになったのだ。


『………帰っちゃったかな。』


一人で歩く帰り道を思うと、憂鬱になる。


『くそっ、土方先生のバカヤロー。
こんど総司に全力で嫌がらせされてるとこ、写メって永久保存してやる。』


そうだ、一と山崎くんにも送りつけようと、一人納得した時。
ウチのクラスの入り口に人影が見える。


『………。』


今は何とか時って言って、お化けが出やすいと、怖い話好きの友達が言っていた気がする。
しかも、薄桜には受験に失敗して、校舎を彷徨う霊がいるっていうのもセットで……。


『まっ、マジで…。』


すると、幽霊がこっちを向いた。


『ぎゃあああっ!!
幽霊っ!怨霊っ!!
悪霊退散!南無阿弥陀仏!!』


「明理珠、どうかしたのか?」


『えっ……?』


見上げると、そこにいたのは一だった。


『ってことは……さっきのお化けは、一?』


「何のことだ?」


『あー、良かった。
死ぬかと思った。』


そこで、はっと気づく。


『一、ずっとここにいたの?』


「ん?ああ。
アンタが放課後になっても来ないから、探しに来たんだが……。
とりあえず、待っていたんだ。
鞄と靴はあったからな。」


『ごめん!』


くそぉ、土方のバカヤロー。
やっぱり、近藤校長と風間にも送りつけてやる。


「無事で良かった。
本当に何かあったのではないかと、心配した……。」


そう言う一の顔は、本当に心配そうで。


『何かあったの?』


そう言わずには、いられなかった。


「何かあったのか?だと。」

しかし、それは説教フラグを立てるための、残念な選択肢だったらしい。


「アンタは、体育の着替えの時、必ず窓際にいる。」


『はっ、はい。』


「あそこは、渡り廊下から丸見えになっているらしい。」


『えっ……?』


そういえば、最近はあまりに暑すぎて、カーテン閉めずに着替えてたっけ……。


『一、見たの?』


「違うっ!
前を歩いていた男子二人組が、アンタを見て……その……。
えっ…エロいとか……意外と…その……むっ、胸があるとか……。」


一が真っ赤になるものだし、本人的には恥ずかしくならないわけがない。


「その……。
やはり、暑いのも理解出来るが、風紀委員としては、そのような行動は慎んでもらいたい。」


『……それは、風紀委員として?』


つい、口が滑って言ってしまった。
しかし、止めようにも止まらないのが、こういうポロリと零れた本音なのだ。


『一は、いっつもそうだよね。
風紀委員としてとか…さ…。

私の彼氏として、注意してはくれないの……?』


きっと、めんどくさい女だと思われたな。
そりゃ、色々言ったりしてきたけど、嫉妬じみたことは言ったりしなかったし…。

私が終わったと、目を瞑った時。
私の身体は、一の腕の中に引き込まれていた。


『はっ…一っ!?』


「アンタも、そう思っていてくれたのか……。」


一の顔は、すごく優しかった。


「スカートが短いと、他の男に見えそうで困る。
遅刻されると、土方先生の指導のせいで、一緒にいられる時間が減って困る。
他の男と話しているのを見ると、やっぱり困る。

それは、俺だけではないのだな。」


『……え?』


「俺だけが、アンタに振り回されているんじゃなくて……。
明理珠も、同じように……その………嫉妬しててくれたんだな。」


一は嬉しそうにはにかむと、そこから顔を近づける。

一緒だけ唇に柔らかい感触があり、すぐに離れた。


「これからは、もっと一緒にいられるように、善処する。」


『わっ、私だって!』


今度は、どちらともなく唇を近づけた。


誰もいない廊下で


(それと……下着なのだが、あの色は少しハデ過ぎないだろうか。
あと少し濃かったら、失点の対象に……。)


(やっぱり見てたんかいっ!
このムッツリ!!)


お題サイト DOGOD69様より
 

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