短編

□―――終わった。
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空も澄み渡った、陽気な昼下がり。


『んふふっ〜


新選組一番組女隊士、明理珠は昼の巡察を終え、廊下を歩いていた。


『斎藤さん、喜んでくれるかな?』


試衛館時代からの付き合いである斎藤。
密かに慕っているのだが、気持ちは伝えていない。

しかし、相手の好きな物くらいは、知ってるもので…。


『ふふっ。
今日はちょっと奮発して、少ーし高めの金平糖なのだっ!』


明理珠はクルクル周りながら、斎藤のもとへ向かう。

しかし、こんな時に限って、邪魔が入るもので。


「明理珠!」


『あり?副長。
どうしたんすか?』


「今日の報告書、どうした!?」


『えっ…報告書……?』


土方はイラついた表情で、明理珠にデコピンをする。


『ったぁー。』


「朝、飯食った後に言っただろ。
総司が、今日はお前の番だって…。」


『聞いてませんよっ、そんなことぉ〜。
せっかく、今から斎藤さんのところに行こうと思ってんのに。』


「仕事してから、遊びに行きやがれ。」


【遊びに行くな】とは言わないところが、実は優しい副長らしい。
だから、斎藤さんや他の皆も、その背中について行くんだろうなと、明理珠はしみじみ思った。


『じゃあ…報告書書いたら、副長の俳句で……。』


「何か言ったか?」


『すいませんでしたっ!!
今すぐ、お部屋に持って行きます!!』


副長の一睨みは、浪士だけでなく、新選組の隊士にも効果絶大だ。

明理珠は一目散に逃げ出した。






『ふーっ。
終わった、終わった。』


書類を提出した明理珠は、今度こそ斎藤のもとへ向かう。


『なんで、こんな日に限って、邪魔が入るんだろ……。』


明理珠が中庭の方に出ようとした、その時。


「さっ、斎藤さんっ。」


千鶴の焦った声が聞こえた。


『えっ、千鶴……?』


明理珠が影からこっそり覗くと、斎藤と千鶴が向かい合っている。


「っ……。」


「我慢しろ。」


二人の体が重なる。


『ちょっ……ちょっと待てっ。
真っ昼間から、誰が見てるかも分かんない廊下で、思っくそ口づけ!?
ないっ。そんなの、ありえないっ!!

だいたい、斎藤さんは……。』


その時、前に沖田に聞いた言葉を思い出す。


【好きな女の子の前じゃ、男は獣だからね…。
明理珠ちゃんに近づくような人間がいるとも思えないけど、気をつけなよ。】


脳内で、その台詞が3回リピートする。


『はっ…ははっ…。
もう、やだ。』


地面に落ちた巾着から、金平糖が飛び散った。
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