短編

□取り返しのつかない事実
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俺達は新政府軍に追われて、山道を必死で走っていた。


『くそっ。
やっぱり、私が。』


「お前でも、あの数は流石に無理だ。」


『でもっ。』


「第一、あいつらの持ってる武器には、敵わねえだろ。」


『………。』


最近は野宿ばかりで休めておらず。
戦って、走ってを繰り返していると、すぐに息が切れてしまう。


「絶対に逃げきるぜ。」


『言われなくても、そのつもりだよ。』


もうすぐで、森を抜ける。
遠くに光が見えてきた、その時。


『左之!危ない!!』


一発の銃声が、森の中をこだました。






『…さ…の…。
…大丈夫…だか…ら。』


いつの間にか、俺達は一本の木の下にいた。


「明理珠!お前、血が!!」


『だ…いじょうぶ…だって。
ほら…ぴんぴんして…る。』


「そうだよな…お願いだから、死ぬなよ。」


『…最期に…皆に言いたかった…。
でも…時間ない…から。』


「明理珠!おいっ。」


『…この戦…勝たなく…ても…いいから…。
お願…いだから…死なない…でって。』


「明理珠、俺を置いてくなよ!!」


『なに…泣きそうなかお…てるの…よ。
……最期…らい…笑ってよ。』


「明理珠!明理珠!」


『……いきてね…。』


あんなに喜んでいた、洋装のシャツの白も、真っ赤に染まっていて。

もう一緒にふざけれないとか、飯食えないとか。
そう思っていたら、涙しか出てこなくて…。


「無理だろ、こんな状況で笑えるかよ。」


霞む視界の先で、明理珠が微笑んでいるのに気づく。


「ああ…生き残ってやるよ。
笑って、お前に会いに来てやるから。」


触れた唇がまだ温かくて、生きているような気がした。


「だから、それまで待っててくれ。」


人生は、取り返しのつかない後悔ばかりで。

あんな約束、しなきゃよかったとか。
ちゃんと薬、もっておけばよかったとか。
もっとお前に、触れておけばよかったとか。

でも、取り返しのつかない事があるから、俺は生きてられるのかもしれない。


取り返しのつかない事実


〈ただいま、明理珠。〉

お前が「おかえり」って微笑んでいるみたいに、満開の桜が迎えてくれた。



お題サイト DOGOD69様より
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