短編

□取り返しのつかない事実
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あいつは新選組の隊士だった。


『左之〜、何やってんの?』


「いや、別に島原に行くわけじゃ…。」


『ほぅ、三馬鹿でか。』


「っ…。」


『土方さんに報告してこよ。』


「待てって!」


俺のことは、なんでもお見通しで…。


『もらいっ!』


「何で俺の所から盗るんだよ。」


『左之のおかずが、一番おいしいから。』


「全部同じ味だろ…?」


『んー、気分の問題。』


いつでも明るくて…。


『はっはっはっ。
私に勝とうなんて、一億年と一ヶ月早いわ!』


「どっから、その微妙な数字が出てくるんだよ。」


『あっ、一!手合せする〜?』


「てっ、明理珠!!」


女なのに、総司や斎藤と同じくらい強い奴で…。


『ったく、何やってんのよ…。』


「腹踊り。」


『馬鹿だろ。』


「にしても、綺麗だな。」


『ん?ああ、月が綺麗だな。』


「違ぇよ。」


『じゃあ、何が…。』


「お前、いつも袴だからな。
女ものの着物も似合うのに、勿体ねぇな。」


『なぁっ…なななっ。
…そっ、そんな風に手が早いから、ダメなんだぞ!』


「日本語おかしいって。」


天然で、それでいて可愛くて。
強気なところとか、からかいがいがあって。


『左之!大好き!!』


「知ってるよ。」


誰より愛しくて…。


だから、あの時の約束が頭の中に残っていて。


『もし、私が死にそうになっても、絶対に変若水を使わないって約束して。』


「……明理珠。」


『約束だよ。』


そういえば、あれが最初で最後の約束だったなんてな。

あの時は、あいつが死ぬなんて、思ってもなかったんだ。
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