短編

□オワリハジマリ(サヨナラ)
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私は船の甲板に立つ。

眼下に広がる江戸の町を見ていると、背後から声がかかった。


「明理珠…。」


その声は、酷く哀しそうな声をしていた。
否、そう思いたかった。


「本当に…良かったのか?」


『高杉が人の心配するなんて、明日は槍が降るのかな…。』


いつもなら、私の冗談や悪態の一つも吐きそうな所を、今日の彼は黙りだった。


『ちょっ…冗談だから!
んな、落ち込まないでよ。』


「落ち込んでねェよ。
それ、そのままお前に返してやるよ。」


『何言って…。』


「わりぃな。」


泣く子も黙る過激派攘夷浪士、高杉晋助にこんな表情させれるのは、私だけだ。


『なーに、謝ってんのさ。
私が望んで来たの、高杉は悪くないっしょ。』


高杉は顔を上げない。


「銀時は……銀時は良かったのか…。」


私の口から、自嘲じみた笑いが漏れる。


『バカだなぁ。
銀時の事、諦めたから来たんだよ。』


高杉は、私が銀時に好意を寄せていた事を知っている。
もちろん、攘夷戦争時代の頃から。


『銀時には居場所が出来た。
お登勢さんに始まり、新八や神楽。
ヅラもエリザベスも真選組の皆も…。
でも、その中に私の居場所は無いから。』


最初は銀時の右腕って立場があったけど、今じゃ新八と神楽がいる。


『私は、いらないから…。』


銀時は優しい、だから人が集まる。
銀時と二人でなんて、儚い幻想は遠い昔に消えてしまった。

その優しい銀時に裏切られた私は、きっと最低の部類に入るんだろう。


『私は銀時と正反対。
自分の物が盗られたら、本気で殺しそうになる。
きっと、狂ってるのよ…。
だから、私から人が離れてく。』


かぶき町で出会った、全ての人の顔が浮かぶ。


『だから…。
だから、私はこの町を…。』


銀時の顔が浮かぶ。


『壊してやる…。
裏切った奴ら全員に、大切な物を奪った奴ら全員に。
私が、この手で…。』


「ああ…。」


高杉が、そっと目元を拭ってくれる。


「俺ァ…最期まで一緒にいてやるよ。」


オワリハジマリ(サヨナラ)


(本当は知っていた、彼女の本心は違うことを。)

(本当は知っていた、彼が全て仕組んでいたことを。)

(それでも、二人はオワリを選んだ。)



お題サイト DOGOD69様より
 

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