短編

□俺にはお前が必要だ(でもお前は俺なんかいらない)
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『お疲れ様でした!
お先に失礼します。』


明理珠はそう言って走りだす。
前は、マネージャーの仕事が早く終わっても、一人で先に帰ることなんてなかった。

黄瀬は、やはり不安になる。


「辛気臭い顔すんな。
とにかく、明理珠追っかけてこい。」


「笠松センパイ……。」


「それで、諦めつけろ。」


「オレ、振られる前提っスか!?」


笠松に背中を押され、黄瀬は鞄を手に取る。


「ありがとうございます。
それじゃ、行ってくるっス!」


「振られたらメールしろよ。
慰めてやるから。」


「森山センパイ、余計っスよ!」


やっといつもの調子に戻ってきた後輩の可愛い恋を、二人はこっそり応援するのだった。


――――――――――――


「ヤバッ……。」


黄瀬はビルの前に立ち止まる。


「見逃したっス。」


海常から遠くない商店街。
そこの一角は少し違っていた。

アイドル、アニメ等のサブカルの店が並んでいる。
そして、そこにあるビルの店の前で、彼女は消えた。


「(可能性は、ここだけだし……一か八か。)」


黄瀬は店の扉を開ける。
すると、そこにはメイド服を着た女の子が、三人立っていた。


「「おかえりなさいませ、ご主人様。」」


そこで、黄瀬ははっと気づく。
今まで、明理珠のことばかり考えていて、何の店かまでは見ていなかった。
だが、まさか【メイドカフェ】だったとは……。

案内された席で、ため息をつく。
こんな店に明理珠がいるわけがない。
明日、またリベンジをしなければいけない。


『ご主人様。
ご注文はお決まりですか?』


「あっ、このコーヒーを……。」


メイドと目が合って、驚く。
メイド服を着ているが、目の前の少女は毎日見ている明理珠だ。

いつも制服かジャージだから、メイド服が新鮮でいつもより可愛らしく見える。


『黄瀬……くん?』


「明理珠っち……。」


明理珠は、急に顔を真っ赤に染める。


『なっ、なんで黄瀬くん!』


「えっ……いや、あの……。
前から森山センパイに、メイドカフェの視察を頼まれてたんスよ。

それより、明理珠っちは?」


『わっ、私!?
えっと……お金がほしくて。』


その言葉を聞いて、森山の仮説を思い出す。


「(まさか、明理珠っちの家がリストラでお金がなくて、年上の男が……。)」


黄瀬の頭は、ぐるぐると回り始めた。
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