短編

□俺にはお前が必要だ(でもお前は俺なんかいらない)
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「明理珠っちが夜遊びっスか!?」


海常高校バスケットボール部の部室に、黄瀬の声が響く。


「静かにしろ。
明理珠に聞こえたらどうするんだ。」


「たっ、確かに。
森山センパイが明理珠っちのストーカーしてたなんてバレたら、部活の雰囲気気まづくなっちゃうっスよね。
笠松センパイも、黙ってないだろうし。」


「そんなわけないだろ。
いいか、オレは可愛い子は大好きだし、明理珠ちゃんも大好きだ。
だが、わきまえくらいは分かってる。

昨日の夜、偶然見かけたんだよ。
部活帰りにマジバ寄っただろ、その後。」


昨日は確かに、部活終わりのミーティングと称して、マジバに行った。
あまりにも白熱しすぎて、気づくと良い時間になっていた。
これ以上はと、話の途中で笠松が切り上げ、黄瀬も抜けたのだが。


「その後、結局色々あって、結構な時間になっちまってさ。
帰りに駅の方に歩いていたら、明理珠ちゃんが肩落としながら歩いてたんだよ。」


そういえば、最近元気がなかった気がする。
部活が終わるとすぐに飛び出し、昨日も用事があるからと、帰ってしまった。


「やっぱり男か……。」


「そっ、そんなのあり得ないっスよ!!」


「分かんないぞ。
黄瀬がボケボケしてる間に、他の男……きっと大人の男に捕まったな。」


「そんなぁぁ!!」


黄瀬は目尻に涙を浮かべる。


「明理珠っち、オレのことなんて、見向きもしてくれないのに……。」


「あんだけアタックしても通じないんだ。
きっと相手は、余程の策略家だな。」


「いったい、どんな手を……。」


「そりゃ、大人の男だからな。
まずは金だろ。
人間、欲に眩まない奴なんていない。」


「明理珠っちスよ。
お金目当てなんてことは……。」


「分かんないぞ。
もし、本当にお金が必要なら?
親が急にリストラになって、家が差し押さえられて……。」


「明理珠っちぃぃぃ!!」


跪く黄瀬に、森山は言う。


「そこに現れた、優しく包んでくれる大人の男性。
しかも、金持ち。
どうだ?」


「でも、それだけじゃ……。」


「大人ってのは、こう……色気もあるだろ?
夜景の見えるホテルのレストランで食事して、それからちょっと強引にいけば……。」


「完敗っス。」


すると、扉が開き、笠松が入ってくる。


「それはないだろ。」


「聞いていたのか!?」


「外まで丸聞こえだったぞ。」


「センパイ!!」


抱きつこうとした黄瀬に、笠松は蹴りを入れる。


「酷いっスよ。
俺、傷心中なのに。」


「明理珠が夜遊びだの、家が極貧だの、大人の男と付き合ってるだの。
それ、森山の勝手な想像だろ。」


「どういうことっスか!?」


「どうも何も、森山が最近ハマってるネットの小説と同じなんだよ。」


「だって、そうとしか考えられないだろ。
高一で夜遊びなんて……。」


「真剣に聞いてた、オレが悪かったっスよ。」


「でも、明理珠が夜遊びってのは本当だからな。」


それを聞いて、黄瀬は眉間に皺を寄せる。


「そんなに気になるなら、後追っかければいいじゃねえか。」


「笠松、意外と大胆だな。」


「そうでもしなきゃ、こいつの身が入んないだろ。
エースが悩み事で不調になんかなられたら、チーム全体に響く。」


「センパイ……。」


「片付けはオレ達がやっといてやるから。」


「大好きっス、笠松センパイ!!」


「それは明理珠に言いやがれ!!」
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