短編

□ふと見せる悲しそうな表情
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明理珠は、久しぶりに外に出る。


『外の空気、久しぶりだ。』


先日、このままではダメだと思い、外に出ようとしたのだが。


『あの時は、佐助が来ちゃったし……。』


明理珠は目尻に涙が浮かぶ。


『思い出したら、ダメだ。
いつもどおりにしなきゃ……いつもどおりに……。』


明理珠は空を見上げる。


『あの日は、キツい事行っちゃったし。
ちゃんと謝って、話し合わなきゃ……。』


もしかしたら、自分の思い違いかもしれない……。
そんな気も、しないわけではない。


『そうだ。
気のせいだよ……気の……。』


「って、聞いたか?」


「ああ。
頭と伊左那海様の話だろ?」


「俺、頭は副頭だと思ってた。」


明理珠は知らず知らずの内に、耳を傾けていた。


『佐助が、伊左那海と……。』


聞きたくないのに、身体が勝手に動いてしまう。


「最近、頭って伊左那海様の所にばかり、行ってるらしいぜ。」


「羨ましいな。
あんな美少女二人に囲まれて……。」


最後の方は聞こえなかった……いや、聞けなかった……。


『私は……何なのかな……。
佐助のために副頭にまでなって、佐助のために強くなろうとしてきたのに。

これじゃ、全てが水の泡……。』


佐助に好かれようと思って、戦ってきたわけではない。
それでも、佐助のために努力してきたつもりだ。


『……伊左那海ちゃんには、適わないよね……。』


――――――――――――


あれから、明理珠とは会えていない佐助。
二週間ほど長期の任務に行っていたのだ。

しかし、帰ってきた佐助が聞いたのは、明理珠が危険な任務を進んで引き受けているという話だった。


「ワシが止めているから、いいものを……。
傍から見ていると、死に急いでいるようにしか見えなくてな。」


「明理珠……。」


「最近、何かあったか?」


佐助は首を左右に振る。


「んむ……。」


「あっ、幸村さま。」


「何かあったか?」


「否……。
しかし、明理珠の表情、悲しそう……。」


佐助は思い出し、顔を歪める。


「なあ、佐助。
ちゃんと、明理珠と話をしたらどうだ。
大切な恋人なんだろ?」


佐助は頷く。


「自分はその気がなくともすれ違うことは、人間なら誰にでもあるものだ。」


「幸村様……。」


そうして、佐助は明理珠の部屋に向かった。


――――――――――――


「明理珠、入る。」


有無を言わさず、佐助は部屋に入った。


『佐助……?』


明理珠の姿は少しやつれていて、痛々しい。


『任務ですか……。
行きますね。』


「いっ、否!」


佐助は、明理珠が自分から離れたがっていることに気づく。


「明理珠、気持ち、聞きたい。
何があったか、知りたい。」


『……それ、本当に聞いてるの?』


明理珠の目は、冷たく鋭い。


「言ってくれなきゃ……わからない。」


『伊左那海ちゃん……。』


「え?」


佐助は目を見開く。


『伊左那海ちゃんと、仲がいいんだね。』


「明理珠?」


『私よりも……うんん。
私なんか、佐助にとっては恋人なんかじゃなかったんだよね。』


明理珠は佐助を拒絶する。


『好きだと……大切だと思ってたのは、私だけだったんだ。』


「そんなわけない。」


『でもっ……。
佐助は私に、好きだなんて言ってくれない。
一方通行なんて、嫌だ。』


佐助は明理珠を抱きしめる。


「我、不安。
明理珠のため、何かしたい……。
伊左那海に相談……。」


『佐助……。』


「間違ってた。
我、明理珠に言うべきこと。
故に、明理珠がより不安に……。」


佐助は明理珠に囁く。


「我、恥ずかしい……。
ずっと思っていた。
でも、言えなかった。

好き、明理珠を。
愛してる。」


『佐助……。』


「これから、努力する。
だから、明理珠も努力して。」


ふと見せる悲しそうな表情


〈それ原因、我、不安。〉

《佐助……。
言いたいことがあったら、伊左那海に言うんじゃなくて、直接私に言ってね。》

〈諾。〉

《大好き。》

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