短編

□ふと見せる悲しそうな表情
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真田忍隊、頭。
猿飛佐助には、恋仲の娘がいる。
忍隊で副頭をしている明理珠だ。

しかし、お互いが忙しい生活をしているため、あまり一緒に過ごすことが出来ないのだ。
明理珠は今日も、書類を運びながら、ため息を吐くのだ。


『佐助、どこにいるんだろ……。』


そんな生活だからこそ、いつでも佐助の姿を探してしまう明理珠。


『私って、佐助の恋人……なんだよね。』


空は少し、曇ってきている。


『今日、佐助の任務は無かったはず……。
やっぱり、自分から行かなきゃダメだよね。』


明理珠は書類を運ぶと、佐助を探して上田城を捜し回った。


――――――――――――


『部屋にも、どこにもいない……。』


残るは、伊左那海とアナの部屋くらいだ。


『アナちゃんは、任務があったはずだし……。
いるとしても、伊左那海ぐらいかな。』


明理珠が部屋を覗くと、伊左那海と佐助の姿があった。


『あっ……。』


佐助は頬を赤く染め、伊左那海を真剣に見つめている。


『そんな……。』


明理珠は見ていられず、顔を背ける。


『嘘だ……。』


佐助が立ち上がる。


「それじゃあ……。」


「うん。
じゃあね、佐助っ!」


明理珠は逃げるようにして、伊左那海の部屋から離れる。


『もうっ……やだよ……っ。
佐助にとって、私って何!?
もう……意味わかんない。』


明理珠は一人、部屋に籠もって泣いた。


――――――――――――


数日後。
佐助は明理珠の様子を見て、心配していた。


「佐助、どうしたの?」


「伊左那海……。
明理珠、元気ない。
我、心配……。」


任務のせいで、最近会えていなかった恋人。
いつもなら、二人の任務が重ならなければ、一緒に過ごしているのだ。


「……体調、悪い……万病の元……。」


「んー。
それなら、お粥とか作ってあげたら?」


「お粥……。」


「ご飯作れる男の人の方が、私は好きだもん。
きっと、明理珠もそうだよ。」


「わかった。
やってみる。」


佐助は女中に炊事場を借りて、何とか粥を作り上げた。


「明理珠、喜ぶよ。
そしたら、元気になるって。」


佐助は伊左那海に背中を押されて、頬を赤く染める。


「我、頑張る。」


「その意気だよ、佐助!」


佐助は、さっそく明理珠の部屋へやってくる。


『はい。』


ノックすると、部屋の中から声がする。
擦れた声に、佐助は更に心配になった。


「明理珠、大丈夫?」


『佐助……?』


「皆、心配してる。
我、明理珠のために、粥作った。

伊左那海の提案。」


すると、明理珠の声音が刺を帯びる。


『帰って……。』


「明理珠?」


『いいから、帰ってよ!!』


明理珠は、ただでさえ擦れた声だというのに、叫んでいる。
それが、さらに痛々しく感じる。


『お願いだから、帰ってよ……。』


「粥、置いていく……。
気が向いたら、食べて欲しい……。」


佐助はお盆を置いて、部屋に向かって歩きだす。


「佐助っ!」


「伊左那海……。」


「どうだった?
明理珠、食べてくれた?」


「否……。」


「えーっ。
明理珠、絶対に喜ぶと思ったのにっ!

じゃあ、次の作戦でも考えよ!
お菓子、食べながら!」


佐助は、伊左那海に引っ張られながら、歩きだした。
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