短編

□あなたの温もり独り占め
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私の数少ない癒しは、ご飯の時くらいです。
美味しいご飯を見てると、楽しくなります。
美味しそうに食べてる伊左那海ちゃんとか見てると、幸せな気分です。

なのに……私の幸せな時間なのに。


『どうして、こんな重苦しい雰囲気の中、食べなきゃいけないんですかっ!』


私の両側には、海野兄弟。
空気が重いです。


「いいじゃないか。
両手に花だぞ、明理珠。
さすが、我が妹。」


『絞め殺しますよ、兄上。』


同じ顔。
しかも、どちらも不機嫌な二人に挟まれた私。
そんな、可哀想な妹を見て、助けてなどくれない薄情な兄上。
いつもなら、張り倒したくもなる所なのに……。


「明理珠様。
口が悪いのではないですか?
やはり、六郎と一緒にいるために……。」


「勝手なこじつけは、止めていただけますか?
明理珠様の口が良くないのは、今に始まったことではない。
信幸様がいた頃からだそうです。」


「信幸様がいた頃に、そんなことは無かったと聞いている。」


「明理珠様は、真面目な信幸様と不真面目な幸村様を見て、育っている。
だから、信幸様の前で真面目なフリしてるのが、一番楽だと理解してらっしゃるんです。」


「信幸様のせいだと言うんですか!?」


「そうとは言ってな……。」


『ああーっ、黙れ!黙れ!!』


盆をひっくり返しかねない勢いで、私は畳を叩く。


『いい加減にしてくださいっ!
てかもう、静かにご飯を食べさせてっ!!』


「「そうはいきません。」」


向かいで笑う兄に、本気で殺意が芽生えます。

なんたって、こんな風に七隈さんとご飯を食べることだって、なかったんだから。


〈明理珠様を、沼田城で預かります。〉


〈なっ!?
まさか、それで来訪したのですか!〉


〈はっはっはっ、面白い。
よし、六郎と七隈。
明理珠に選んでもらうとよい。
一日、一緒に過ごして、良かった方について行くってのは、どうだ。〉


思い出すと、殺意しか沸いてこないです。
いい加減にしてくれないかな、あのバカ兄上。


「お前達。
そんなんだと、二人とも選んではもらえんぞ。」


『私は別に……。』


「のう、明理珠。」


あっ。
兄上のこの目は、絶対に何か考えてる。


『もう……いい加減にしてよ……。』


私の切実な願いも虚しく、六郎さんと七隈さんに火が点く。


「明理珠様、ご飯のおかわりはよろしいですか?」


『え……?』


「いつも、三杯ほど召し上がられるのに、今日は箸が進んでおられない様子……。」


『いや、原因は六郎さ……。』


「明理珠様、魚の骨を抜きます。
貸してください。」


『なっ、七隈さんっ!?』


必死の様子の二人を見て、兄上はほくそ笑んでいる。
なんだか、玩具にでもされている気分です。


『それくらい、一人で出来ますからっ!
いい加減にしてくださいーっ!!』


こんな状態、耐えられる気がしませんっ……。
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