短編

□あなたの温もり独り占め
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私、明理珠には、兄上がいます。
上田のお城でお殿様をしていて、ぐーたらで、いつも寝ていて、すぐ女の人の所に遊びに行きます。

そんな兄上が、どうして城主でいられるかというと……。


「幸村様っ!
どちらにいらっしゃるんですか!!
おとなしく出てきてください!!」


その人は、今日も必死に、兄上探しをしているようです。


『六郎さん。
また、兄上が逃げ出したんですか?』


「明理珠様。
おっしゃる通り、幸村様が脱そ……いえ、お出かけになられたようで。」


『まったく、迷惑ですよね。
六郎さんが優しいから、見捨てられずに支えてもらえてるのに。』


兄上は、しっかりした小姓の有り難みが、分かっているのだろうか……。


「今回は、脱走の原因が分かっているので、気持ちは分からなくもないのですが……。」


『何か、あったんですか?』


「信幸様が、いらっしゃられるのです。」


信幸様とは、幸村兄上の兄……つまり、私の兄上です。
私は、真面目にしてるから、可愛がってもらっているけど……。
幸村兄上は怒られてばっかりで、苦手なようです。


『だから、脱走したんですね。
普段から、真面目なフリしてたら、怒られないのに。』


「幸村様は、明理珠様のように賢くないのですよ。
良い意味でも、悪い意味でも、真面目なんです。」


『そう言ってくれるのは、六郎さんだけですよ。』


「ですが、それとこれとは別の話。
幸村様も、いい加減にしてもらわねば……。」


「まったくですよ。」


声が聞こえて振り向けば、そこには六郎さんと同じ顔が。
この人は、信幸兄上の小姓さんで、六郎さんの弟さんの、七隈さんです。


「城主ともあろうものが、城を抜け出すなど……。」


『「(否定出来ない……。)」』


信幸兄上は、真面目な方で、七隈さんも尊敬してるからな……。
幸村兄上を見てたら、許せなくなってくるんだろうな……。


「こんなところにいては、明理珠様の教育に悪い。
今すぐここを出て、沼田城へお越しください。」


『え!?
私…?』


「明理珠様は、幸村様が身を預かると言っておられる。」


「その幸村様が、生活態度・性格・振る舞い共に、明理珠様の教育に悪いと……。」


「明理珠様は、子供ではありません。
自分で善悪の区別くらい付けられる。」


「それを六郎に言われ……。」


『ああーっ!
静かにしなさーい!!』


ここの城の周りの人は、人の話を聞かないことが多いです……。
疲れた……。


『とりあえず、信幸兄上はどうしたんですか?
迷子ですか?』


「そんなわけありませんよ。
何度、この城に立ち寄っていると思っているんですか。」


『ご、ごめんなさい……。』


「七隈、口を慎みなさい。」


「貴方に言われたくな……。」


『あーっ、もう!
堂々巡りじゃないですかっ!!』


本当に、どうして話が進まないのだろうか……。


『それで、信幸兄上は?』


「今日は私が代理で来ました。
こんなことに割いてる時間はないと。」


『兄上……。』


すると、いきなり隣の襖が開く。


「そうか、兄上はいらっしゃらなかったか。
それは、残念だのう。」


出てきたのは、全く残念じゃなさそうな、幸村兄上でした。


「幸村様、いったいどこに……。」


「いやー、すまん。すまん。
ちょっと廁に……。」


『兄上。
そんなことやってるから、信幸兄上が来ちゃうんだよ。』


「いやー、七隈。
待たせてすまんな。
よし、話を聞こう。
仕方ないから。」


「最後の言葉は、聞かなかったことにします。」
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