短編

□貴方が貴方であるために
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「……我…明理珠好き……返事…待ってる…。」


初々しい告白を聞いたのは、一週間も前。
私はまだ、答えることが出来ないでいた。

それは、彼が忍であり、真田の十勇士だからだ。
忍隊の一人でしかない私には、もったいな過ぎる相手だ。

その上、私は幸村様に助けられた身。
命の恩人であり、誰よりも大切な人達だから、自分の気持ちを認めてしまうことで、裏切りたくはない。


「最近、佐助が心ここにあらずといった様子ですね。」


「ん……?
まあ、そうかのう?」


「このままでは、有事の際……。」


聞こえてきたのは、幸村様と六郎さんの声。


「とはいえ、このままではのう。
佐助も大事な戦力。
欠けるわけにはいかん。」


やっぱり、佐助は上田に必要なんだ。
私が枷になるようなことがあって、彼が傷ついたりなんかしたら。

バカみたいだ。
大好きな人も恩人も、守れないなんて……。
私は忍失格だ。
こんな女が、優しい彼の隣に立つべきじゃない。


――――――――――――


佐助を呼んで、私は精一杯の嘘を吐く。


「決まった?」


期待と不安の入り交じった目で、私を見つめる佐助。
申し訳なさを感じるが、この決意を曲げるわけにはいかない。


『ごめんなさい……。』


佐助は目を見開き、下を向く。
ごめんなさいの意味を、彼は知らないだろう。


「何故?
…他に……いる……?」


『違うよ。』


「じゃあ…。」


『私には、佐助がただの上司にしか見れないの!』


私の言葉は冷たい。
そうでもしないと、突き放せそうになかったから。


「明理珠。」


『私は、佐助のことなんて何とも思ってないの!』


佐助の傷ついた表情を見て、いたたまれない気持ちになる。
だが、苦しいのは今だけだ。
これで、彼は幸村様のために戦える。

佐助は何も言わずに去っていく。
【大好き】の一言が言えれば、こんなに互いが傷つき、苦しむことはなかったのだろうか。
でも、私は彼が何より大切だから。
零れてくる涙は、止まることない私の思いのようだった。


――――――――――――


『ごめんね…付き合ってもらって……。』


「ううん、いいの。
明理珠が少しでも落ち着けたなら。」


あの後、伊左那海が廊下を通りかかり、泣いている私を部屋に入れてくれた。


「何かあったの?
私で良かったら、話聞くよ?」


『いいの…何もないから。』


「何もないわけないよ!」


伊左那海は、私の手を取る。


「言ってよ。
私達、友達じゃん。」


『伊左那海……。』


私は、佐助とのことを話した。
伊左那海の剣幕に圧されたこともあるが、親友に嘘は吐けなかった。


「そんなのおかしいよ!」


『おかしくないよ。』


「でも、明理珠は佐助が好きなんでしょ?
好きって気持ちは、押さえられないんだよ!
それに嘘ついたって、佐助も明理珠も悲しいだけじゃん!」


自分のことのように涙を浮かべてくれる親友。
本当に、上田にいて良かった。


「それで、明理珠は耐えられるの!?」


『分からない。
けど、佐助の邪魔はしたくない。
だから、上田を出てくよ。
けじめのために。』


私は、泣きそうになる顔を必死に押さえて、笑顔を浮かべる。


『皆に伝えておいて。
今まで、ありがとうって。』


そして、上田の城から姿を消した。
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