短編

□心に貴方を焼き付けて
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カルタちゃんが大怪我をしてから、妖館の雰囲気も暗い。


『凛々蝶、ちゃんと食べなさい!
今倒れられても、誰も面倒なんて見れないよ。』


「なっ……すまない。」


『謝るくらいなら、いつもの悪態でも吐きなさい。
てか、せっかく双熾が用意してくれたんだし……。』


「僕のことは、お構い無く。
それより、凛々蝶さまも明理珠も、顔色が優れません。
部屋に帰って、お休みになられては……?」


「そう……だな……。」


『双熾も、早く休みなよ。』


「ええ、すぐに行きます。」


現在、SSは公園のカルタちゃんを見に行っている。
いつ、敵が現われてもいいように。
その話が持ち上がった時、私の頭に浮かんだのは、あの夢だった。


――――――――――――


深夜、部屋の扉が叩かれる。


「明理珠!」


『どうしたの?』


「胸騒ぎがする。
御狐神くんが、危ない気がする!」


二人でタクシーに乗り込み、森林公園へ向かう。

そして、そこにいたのは自分の首に刀を当てた、双熾がいた。


「あの方を守ります。
この命に代えても。」


その言葉を聞いて、確信する。
凛々蝶を守れるのは、双熾だけ。
双熾を支えられるのは、凛々蝶だけ。

凛々蝶が双熾の前に立つ。
凛々蝶が戦う。
それでも、私は動かない。


「死ぬ時は、一緒だと思え!」


「はい…っ。」


こんな時、少し嫉妬してしまう自分の、先が思いやられて仕方ない。

真っ黒な少年が、双熾に近づく。
庇おうとする凛々蝶を守るため、双熾の分身が立ちはだかる。


『今だ……。』


私は導かれるように、双熾の前に立つ。
いつも守られている分、こういう時くらいは格好つけたい。

貫かれた腹が痛いが、気にしていられない。
少年の胸に、自分の刀を突き刺した。


『……ぐっ……はぁ……。』


倒れた私を、双熾が支える。


「貴女はっ!
なんで……どうして庇ったのですか!?」


覗き込む双熾の胸に、アザは無かった。
なんとか、一安心だ。


『…運命を……変えたかったから……じゃ…ダメ…?』


夢の中の私は、酷かった。
嗚咽は止まらないし、人に見せれる顔じゃなかった。

でも、現実の私は違う。
彼が生きているから。
少しだけ、寂しい気もするが、そのうち会える気がする。


「僕を……僕を置いて行かないで……。」


『凛々蝶を……守る…のは……双熾だ……よ…。
……押しつけ…は……良くない……んだか…ら…。
し……あわ……せ…に…。』


「何のことか、わかりませんっ!
明理珠!しっかりしてくださいっ!!
貴女がいないのに、幸せになんて……。
明理珠!明理珠!!」


私は、笑顔だろうか?
怖くないわけじゃない。
それでも、私は満足だ。
仲の良い凛々蝶と、愉快な妖館の皆。
何より最期の記憶が、大切な人…双熾の顔だから。

双熾の声が、聞こえなくなってきた。
双熾の手が、感じられなくなってきた。
双熾の顔が、見えなくなってきた。

出来れば、泣き顔じゃなくて笑顔が良かったなんて……高望みかな?


心に貴方を焼き付けて


〈凛々蝶さまとは、違う意味で大切な貴女。〉
〈この気持ちは、伝わらなかったようですね。〉
〈来世で貴女を見つけたら、分からせて差し上げます。〉

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