短編

□あんなに遠くにいたあなたがこんなにも近くにいる
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別に、オレは顔が悪いわけでもないし、女なんか簡単に落とせると思っていた。
あいつに、恋をするまでは……。


『日向、またやられたの?
やんちゃだねぇ〜。』


「子供扱いすんなよ。」


『いやいや。
お姉さんから見たら、ただの子供だよ。』


「二歳しか変わんねーだろうが。
しかも、幼なじみなだけだし。」


そう。
それだけの関係だったはずなんだ。

月宮に諭されるまでは……。


――――――――――――


あの日は、明理珠が色んな所をうろうろしていた。


『花村さん、ご飯。』


「もう少し、待っていて下さい。
カップラーメンではないので、3分じゃ作れません。」


『3分間クッキングは?』


飯をたかったり。


『続〜、ゲームしよ。ゲーム。』


「いいぜー、俺が相手してや……って、もう負けた!?」


『じゃあさ、これ着てよ。
ってか、着なさい。』


周りを嵌めて、罰ゲームという名の辱めを与えたり。


『なに?
尚もメイド服着たいの?』


「そっ、そんなわけねーよ!」


『いやいや、顔が着たがってた。』


「意味わかんねっ……ぎゃああああ!!」


尚は……ちょっといい気味だな。


「なに、明理珠をジロジロ見てるの?
この変態。」


「別に、ジロジロなんて見てねぇよ。
正々堂々、ガン見してる。」


「もう、付き合いきれないわ……。
そんなに酷いとは、思わなかったもの。」


月宮はため息を吐きながら、俺に言う。


「そんなに好きなら、告白すればいいじゃない。」


「……好き?
俺が、誰を?」


「明理珠に決まってるでしょ。
変な所で鈍いわね。
見てたら、誰でも分かるのに。」


それを聞いて、すべてのモヤモヤが解消された。
そう、あいつへのこの思いは、恋愛感情だったんだと。


「俺が……明理珠を好き……。」


明理珠を目で追ってしまうのも、近づく男を消し炭にしてやりたいと思うのも。
これが……好きだから……。


「なに、この乙女みたいなカンジ。
もっと、カッコいいカンジで恋愛したいんだけど。」


「どうしようもないでしょ。
だって、人間の感情なんて、そんな簡単には出来てないわ。」


月宮は背を向けて、俺に言う。


「ぐずぐずしてたら、私が取るから。
せいぜい、頑張りなさい。」


さっそく、月宮が明理珠をお茶に招待している。


「……マジ、どうしよう。」


この感情の名前は分かっても、対処方法だけは分かりそうになかった。
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