短編

□早く会いたくてしかたない
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メゾン・ド章樫。
通称、【妖館】。
妖怪の先祖返り達が住むマンションに、唯一の人間がいる。


『おはよう、凛々蝶ちゃん。
御狐神さんとカルタも。』


ラウンジにいた三人に、元気よく挨拶する少女。


「おはようございます、明理珠さま。」


「おはよう。」


凛々蝶が明理珠の顔を、ハンカチで拭う。


「頬に泡が残っていたぞ。
まったく、君は世話がやけるな。」


『べっ、別に好きでつけてきたんじゃないんだからっ!
……でも、ありがとう。』


「どっ、どういたしましてとでも、言っておこうか。」


ツンデレな明理珠とツンしゅんな凛々蝶。
この二人は、何だかんだ言って、仲が良い。


「そういえば、蜻蛉さまが帰ってこられるそうですよ。」


『え!?
蜻蛉が、帰ってくるの!』


「明理珠、嬉しそう。」


『うっ、嬉しいわけないでしょ!』


明理珠は頬を染めながら言う。


『私の仕事は、蜻蛉の留守を守ることなの。
だから、帰ってきてもらわないと、仕事にならないのっ!!』


明理珠の仕事は、蜻蛉の留守の間、1号室を管理すること。


『本当に、それだけなんだからっ!!』


明理珠はラウンジから出ていく。

それと入れ替わるように、蜻蛉が入ってくる。


「あの反応、なかなかのドS。
調教のしがいがある。」


「あ、蜻さま。」


「おかえりなさいませ、蜻蛉さま。」


「ああ、忘れておったぞ。
今帰った、肉便器共。」


そして、身を翻す。


「そして、さよならだ。」


蜻蛉が出ていくのを見て、凛々蝶がこぼす。


「一体、何なんだ。」


「蜻さま、嬉しそう。」


「……いつもと変わらないように見えたが。」


「いえ、とても喜ばれていましたよ。」


「そうなのか?」


蜻蛉を良く知る二人には、そう見えたらしい。


――――――――――――


部屋のドアが、いきなり開く。


「帰ったぞ!」


『っ!?
ほっ、本当に帰ってきた。』


明理珠は玄関へ小走りで向かう。


「出迎え、ご苦労。」


『別に出迎えたわけじゃないわ。
玄関が汚れたら嫌だから、注意しに来ただけよ。
てか、ノックくらいしてよね!!』


「ここは、私の部屋だぞ。
何に気を遣う必要がある。」


『私が着替えてたら、どうするのよっ!』


「そんなこと、気にする間柄でもないだろう。」


蜻蛉は明理珠を抱き締める。


「やはり、貴様には私が一番合うな。」


『ちょっ、離してっ!
いきなり抱きつかないでよっ!!』


「そんなに嬉しいか、このドMが。」


『ドMなわけ、ないでしょうがっ!!』


明理珠は蜻蛉から離れる。


『大体、何なのよっ!
いっつもいっつも、勝手にフラフラして!!
私の心配なんて、お構い無しだし。』


「………………。」


『どっか行くなら、ちゃんと私に言ってよね。』


「フフ……フハハハハハ!」


急に笑いだす蜻蛉に、明理珠は慌てる。


『なっ、何!?』


「やはり、私の帰るべき場所は、明理珠の隣[ここ]だな。」


『はっ、はぐらかさないでよ!!』


蜻蛉は明理珠の額に口づける。


「これからも、私の帰る場所でいるのだぞ。」


『……ばか。
お土産、忘れないでよね。』


言葉や態度に隠してしまう、本当の気持ち。
それでも、その分かりにくい想いは、いつでも蜻蛉に伝わっている。


早く会いたくてしかたない


〈そういえば、蜻蛉さまが帰ってこられるそうですよ。〉

《ほっ、本当っ!?》

〈明理珠、嬉しい?〉

《うっ、嬉しいわけじゃないわよ。
まあ、蜻蛉の帰る場所はここしかないのだから、当然よね。》

 

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