上田の忍姫(BRAVE10・才蔵夢)

□ACT6. 握り直した拳
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――命拾いしましたね――

才蔵は掛けられた声に見上げる。


「どうやら伏兵がいるようですし…。
狙われている状態で、このお嬢さんを連れ歩くのは不利。
引きぎわです。」


半蔵は十蔵の弾を避けると、柵の上に立つ。


「……っく。」


「しかし、ガッカリしましたよ。
威勢よく出てきたわりには、たいしたことなくて。
異名だけが、ひとり歩きしてただけですね。
それでは。」


『っ……。』


「姫、またお迎えに上がりますよ。」


「………っっ。
(そうだ…伊佐那海……。)」


才蔵が見上げると、佐助が伊佐那海を抱き上げている。


「悠紀、大丈夫?」


『私は大丈夫だよ。
でも、佐助っ……さっきの傷……。』


「たいしたことない。」


『でも……。』


「悠紀、支える。」


才蔵は離れていく悠紀と伊佐那海を追うことが出来ない。


――コイツに助けられたのか、なんてザマだ……――


才蔵はボロボロの手を眺める。


――なんて……情けねえ
守れなかった――


――――――――――――


才蔵は上田の城の屋根で寝転ぶ。
あの時と同じように。


――こんなハズじゃなかった
俺はもっと強いハズだ――

〈光に照らされて日寄ってたら、足元すくわれちゃうかもよ、才蔵。〉


――そうだ…だいたい守るなんてのも、無理矢理押しつけられたんだ

暗殺が生業のこの俺が、ガラにもねえことするから、調子が狂ったんだよ
深い意味はねえ――


《才蔵っ!
私も着いて行く。
もっと色んな世界が見たいの。
お城の外の世界が!!》


――あの変な女に翻弄されて、道を誤った…
また、もとの傭兵に戻りゃいい
悠紀も伊賀に帰して……――


《行こっ、才蔵!》


――そうすりゃ気負いもねえ……楽になる
誰かに必要とされんのは、重っ苦しい

そんなもの…捨てちまえ――


《〈才蔵……〉》


「うるせえっ、出てくんなっ。」


すると、どこからか金属音が聞こえてくる。


「ん?」


――佐助と悠紀!?


そこには、修行する二人の姿があった。


――稽古か…こんな夜中に……――


『はい、佐助。
手拭い使う。』


「悠紀、感謝」


二人の様子に、才蔵はムッとする。


「ヘッ、バーカ!!」


「!」


「なに、一生懸命やってんだよ!
テメェも一回醜態をさらしちまってんだろ!?
無駄だ、無駄!」


『才蔵、何言って……』


反論しようとする悠紀とは逆に、佐助は外方を向く。


「ぅおい、テメエ!」


「話す価値、無。」


「――んだ、コラ……。
団体でしか動けねえ腰抜けが、なにを偉そうに!!」


才蔵は、攻めようとする。
しかし、佐助は才蔵の間合いに一瞬で入り、頭突きをする。


「ぶはっ。」


そのまま、才蔵は池に蹴り落とされる。


「なにしやがる、この野郎!!
見苦しいんだよ、今さら必死に修行しやがって!!」


『見苦しくなんかないよ!
私から見たら、今の才蔵の方が見苦しい。』


「っ……。」


「我、おのれの弱さを知る。
故に、技磨く。

幸村様。我、必要。
上田、守る!真田、守る!」


「――なにが、守るだ。
重てえだろ、そんなモン!!
俺は、そういうのが、嫌いなんだよ!!」


「嫌い!?
否!お前、できない。
弱い自分、認めるできない。」


――やめろ!!――


「このっ!」


立ち上がろうとした才蔵を、佐助は足で沈める。


「一度ならず、二度までも…。」


しかし、次に降ってきたのは手だった。


「はいあがれ、何度でも。
お前、必要。
強くなれる、誰かのために。」


『私も協力するから。
修行も付き合うよ。』


才蔵に笑みが戻る。
すると、拍手が聞こえる。


「お前がこんなにしゃべったのを、初めて聞いたぞ。
なかなかいいこと言うなあ、佐助!」


「ゆ…幸村様!」


顔を真っ赤に染めた佐助は、屋根の上に消える。


「お。逃げたな。」


幸村は沈んだままの才蔵を見下ろす。


「で。どうする?
そこから、はいあがるか?
それとも、おのれから目をそらし…牙の抜けた犬のごとく生きていくか?」


「誰が!冗談じゃねえ!」


『才蔵が頑張るなら、私も頑張る。
自分の身は、自分で守る。
絶対、重荷にもならない。

強くなって、伊佐那海も上田も、守ってみせる!』


「ならば、ぜひお前達に頼みたいことが、あるのだがのう。」


「【ぜひ】ってのがやらしいな。」


ACT6.握り直した拳
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