上田の忍姫(BRAVE10・才蔵夢)

□ACT6. 握り直した拳
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上田城に、幸村の声が響く。


「――ったく…。
楽しい祝いの席が、台なしになっちまったなあ…。
民にまで、犠牲を出しちまって……。

…が、これは狸との戦だ。
やむを得ん。
……うん。」


幸村は、話ながら座敷を覗く。


「お前ら7人がいてくれたお陰で、この程度で済んだんだろうよ。
なあ、我が勇士たちよ。

霧隠才蔵、発亥悠紀、アナスタシア、猿飛佐助、海野六郎、筧十蔵、伊佐那海。」


「……勇士って…!?」


伊佐那海は首を傾げる。


「俺が見初めた強者ってところか…頼りにしたい切り札ってなもんだ。」


「強者?頼りにしたい?
私も!?私も!?」


「ああ、そうだ。
伊佐那海は、かわいいのが役割だぞ。」


『良かったね、伊佐那海。』


「うん!」


アナが幸村に言う。


「そんな、生ぬるいことを言ってる場合じゃないでしょ?

なんで真田は、目の敵にされてるの?
白昼堂々、攻め入ってくるなんて、フツーじゃないでしょ?」


「それは決まってんだろ。
俺が、美丈夫で女にモテすぎだからだ。」


すると、その場が静まり返る。


「あっ、なんだその反応!!
シラーっとすんな!!ツッコミ入れろ!!」


『幸村様、面白かったよ!うん。』


「悠紀に言われてものう……。
しかも、ズレてるし……。」


『むきゃー!!』


十蔵が進言する。


「またそうやって、お茶を濁そうとなさる。
皆にちゃんと説明しないと、おさまらないですよ。」


「【ちゃんと】とかって、ガラじゃねーんだが…。
まあ、一寸[ちょっと]俺の話を、聞いてもらおうかのう。」


六郎は幸村に煙管を手渡す。


「うむ。」


受け取った幸村は、一服する。


「一匹の狸がこの真田の地を奪おうとしておってな。
一度、手ひどく追い返したのが、よほど気に入らんらしい。

ここ上田は、いろいろと便が良くてな。
戦をするならば、押さえておきたいところだ。
奴が欲するのも、まあ無理はなかろう。」


「こおんな山奥の小さいお城が、そんなに重要なの!?」


「小さい、余計だ。
まあ、戦を知らねばわからぬであろうが。」


「……戦…ね。」


「そうだ。
大きいうねりが来ようとしてんだ。
まさに今。」


幸村は口角を上げる。


「太閤〔秀吉〕が亡くなって一年…。
狸が本性を出してきやがった。
今まで、コソコソ裏で動いておったが……。
奴め、情勢を一気にひっくり返そうとするぞ。」


「で…でもなんで、幸村様がしつこく狙われるの?」


「面目が立たんのだろうよ。
内府〔内大臣〕殿ともあろうおかたが、こおんな片田舎の若侍にやられたのだからな。
ざまあみろだ。

俺は信州上田の守り人…国の民を守る義務がある。
ここを侵す者は、叩き返すが礼儀。
道理の通らぬ要求には応じん。
そんなもの、クソくらえだ。」


「守りを固めるためには、手練が必要…。」


「そうだ!
それに、ここを動けぬ俺の目と耳のかわりに、外界を窺う者も必要。
なによりも大事なのは、情報だからな。」


「それが、我らというわけだ。」


『幸村様……すごい……。
(ちゃんと、国の民のために戦って……。)』


才蔵が小さく零す。


「……くだらねえ。」


「んん!?」


「守るためだけの手練か。
んな、消極的だから、攻め入られんだよ。
阿呆!」


「誰が【守り】で終わるか!
この世に生まれた武士[おとこ]ならば、この機に乗じて天下を狙う!
出会ったのも、なにかの縁!
付き合えよ、お前ら。

どうだ?
面白そうだろ、才蔵!」


才蔵は立ち上がる。


「――……知らねえよ。
俺には関係ねえ。」


「――才蔵?」
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