桜契り(妖狐×僕SS・御狐神寄り)

□第十三話 戦う猫
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桜稀と双熾が付き合い、もう半年経った。
そんなある日のこと。
双熾に連勝が尋ねる。


「なあ、桜稀とケンカしたりしないの?」


「致しませんよ。」


「へ〜、上手くいってんじゃん。
桜稀はこんなんだし、凛々蝶あんなんだからさ。
お兄様としてはちょっと心配だわ〜。」


『連勝に言われたくない。』


「あはは。
言われてやんのー!」


「ご心配には及びません、お兄様。
そこがまた、魅力的なのですから。」


「どこが?悪態が?愛想のなさが?」


「あの尊大なお口を、どうして差し上げようか…。
それを考えるのが、また愉しいでしょう?」


『凛々蝶!
逃げろぉぉ!!』


「その前に、桜稀!
お前が逃げろぉぉ!!」


「夜は3Pの下克上ね!
そこんとこ詳しく!!」


「心配だわー…。」


双熾はうっとりとした表情をする。


「それに、凛々蝶さまは素直になろうと、努力して下さっていますし。
努力して下さっている姿が、昔の桜稀と被って…。」


「おい、凛々蝶。
お前も逃げろ。
危ねえよ…目が。」


『撤退するぞ。
私の部屋に逃げるぞ。』


「いや、あいつはお前の部屋の鍵を持っているかもしれん。
俺の部屋へ行くぞ。」


凛々蝶は腕を引かれながら思う。


「(彼なりに幸せを感じているのなら良いが…。)」


『どうした、凛々蝶?』


「(桜稀を独り占めするのはズルいぞ。)」


ーーーーーーーーーーーーーーー


凛々蝶は双熾に言う。


「僕はバイトをする。」


その言葉に、双熾と野ばらは目を丸くする。


「甘味処、メイド喫茶。
どっち!?」


「なぜ、二択。」


「SSとして、賛成しかねます。」


「予想通りの反応だな、御狐神くん。
君が過保護な事は知っている。
だが、今回だけは譲る気はない!」


凛々蝶は右手を上げる。


「それに、私には心強い助っ人がいる。」


扉から出てきたのは、桜稀と空琥。


「凛々蝶のバイトさんせーい!
御狐神は狐の丸焼きになっちまえー!」


『丸焼きになる必要はないが、凛々蝶の自由は確保しなければいかん。』


桜稀は凛々蝶を庇う。


『俺が一緒にバイトに入ろう。
そうすれば、問題ないだろうしな。』


「それで、僕が許可するとでも?」


「まーいいんじゃねー。
バイトくらい。
ちゃんと送り迎えしてやれば、大丈夫だろ。
それに凛々蝶、強いしな〜。」


「そうね。
負ける気がしないわ!」


「あ、ごめんなさい。」


5対1になったところで、残夏が間に入る。


「じゃあさ☆
それを証明したら、いいんじゃなーい?」


「ホントに唐突だな、君は…。
証明…?」


「そう♥
一人でも大丈夫って、証明するのさ♬」


一行は机を片付け、凛々蝶、桜稀と双熾は対峙する。


「第一回。
チキチキちよたん&桜稀たんVSそーたん。
ガチンコバトルー!!
二人のうち、どちらかでも一本取れれば、バイトを認めるって事で☆
ちなみに動きを制した方が、一本ね〜♬」


「茶番だな。おもちゃにするのはやめてもらおうか。」


「なんで〜?自身ないの〜?
このまま、そーたんの庇護に甘んじているの〜?
それとも実は、嬉しいのかな〜?」


「フン。
甘えるだと?
この僕が?」


凛々蝶は変幻する。


「笑止!
そこまで言うなら、証明しよう!
元々SSは不要だと言っていたはずだ。
腕に自信はあるのでな!」


『俺も引く理由はないな。
双熾を負かせたいとは、以前から思っていたし。』


「桜稀〜!
俺もや……。」


『下がってろ。』


桜稀も変幻する。


『さあ、どうする?』


「…凛々蝶さまと桜稀に刃を向けるなど…。」


「では、僕の不戦勝という事で、君はバイトを認めるな?」


「気は乗りませんが。
お二人が、これに乗るというのなら、かえっててっとり早い。」


双熾も続いて変幻する。


「…大丈夫。
怪我などさせません。
すぐに済ませて、さしあげます。」


「レディー…。」


凛々蝶と桜稀は跳躍する。


「ファイッ☆」


二人は双熾に向かって、武器を振りかぶる。


『ちっ…すばしっこい。』


あと少しで刀が当たるというところで、双熾の刀で受け止められる。
凛々蝶と対峙する本体の双熾と、桜稀と対峙する分身の双熾。


『なあぁぁぁ!
分身とはズルいぞ、貴様ぁ!』


「二対一なんですから、少しくらいのハンデはいただきたいですね。」


桜稀と双熾の刀が行き来する。


「大変、腕が上がってらっしゃるようですね。」



『凛々蝶のために、負けるわけにはいかないからな。』


「たとえ、凛々蝶さまのためとはいえ…。
僕以外の人間のためになんて……。」


鍔迫り合いの中、双熾は桜稀に顔を近づける。



『ち…ちちちち、近いぞ、
阿呆めが!』


「妬けますねぇ…。」


その時、凛々蝶の悲鳴が聞こえる。


『凛々蝶!』


桜稀は双熾に背を向け、凛々蝶に向かっていた刀を止める。


『凛々蝶を傷つけようとするとはな…。
見損なったぞ!』


「いえ。
狙いは桜稀さまですよ。」


『そうだ!
もう一人…!』


「桜稀!
後ろだ!!」


分身の双熾は、桜稀を後ろから抱きしめる。


『これくらいで、私を倒せたなどと…。』


「桜稀さまは素敵な香りがしますね。」


双熾は桜稀のうなじに顔を埋める。


『なっ…ななっ…。』


「このまま、食べてしまいたい。」


桜稀は顔を真っ赤に染める。


「桜稀から離れやがれ!」


「どうしてでしょうか?」


「桜稀の動きは止まったんだから、勝負は……あっ。」


「空琥も認めましたし、やはりここまでかと。」


「あっけなく、勝負ついちゃったね〜☆
勝者☆そーたん〜☆」


凛々蝶と対峙していたはずの双熾が消える。


『い…いつの間に、入れ替わってたんだ……。』


「愛の力です。」


凛々蝶は桜稀から双熾を離す。


「勝負は一対二だろう!」


「そうだぜ!
急に分身とか、何なんだよ!
ズリーんだよ!!」


「そんなルールは聞いていません。
更に言うなら、これは僕の能力の一つに過ぎませんので…。」


「それこそ、聞いてないな!
公正な勝負ではない!」


「おや、可笑しいですね。
こんな不本意な事にお付き合いしたのは、これで凛々蝶さまが問答無用で納得して下さるという話だったからなのですが…。」


「で、でも。
やはり、こういう事は。」


『凛々蝶…。
もう、諦めよう。
作戦なら、きっと他にもある。
考えればいい。』


双熾は桜稀を抱き上げる。


「凛々蝶さま。
僕は今から色々と、やらなければならないことがありますので、桜稀さまをお部屋までお送りしますね。
空琥。
凛々蝶さまを頼みました。」


「なんで、俺が!」


「その…。
もう、帰ってこなくていい。」


「り、凛々蝶!?」


双熾は満面の笑みを浮かべる。


「それでは、皆様。
お騒がせしました。
また明日…。」


二人が扉を出るまで、全員の脳内でドナドナが流れていた。
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