桜契り(妖狐×僕SS・御狐神寄り)

□第九話 戸惑う猫
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知っていた。
二人に強い絆があることは。
誤魔化していた。
二人が幸せなら、私も幸せだと。
騙していた。
二人にだけは、知られてはならないと。


――気づいていたはずだったんだ……
逃げてただけなんだ……
理解した時には、遅かった……――


――――――――――――


「桜稀!
タイムカプセルを埋めようぜ!!」


部屋に飛び込んできた空琥。
しかし、呼び掛けた相手の反応は無い。


「桜稀……。」


『……ん。あ、ああ。
空琥、どうかしたのか?』


「いや……。」


蜻蛉が再び妖館を旅立った日。
あれから一週間が経つにも関わらず、桜稀はぼーっとしたままだ。


「(やっぱり、蜻蛉の野郎のせいか……?)」


『何かあったのか?』


「違っ……じゃなくて、あったんだけど、問題じゃなくて……。
あー、意味分かんなくなってきちまった。」


桜稀にレターセットを突き付ける。


「タイムカプセルをするんだ。
妖館の皆で。」


『それで手紙か。
分かったよ。
それで、何年後に向けて書くんだ?』


「来世の誰かに。
自分でも誰でもいいってよ。」


『…………誰かにか。』


桜稀はレターセットから、紙を取り出す。


『伝えたいことは、たくさんあるんだけどな。
伝えたい相手も……。
でも、ここは伝えるべきことを書こう。』


桜稀の表情が曇る。


「なあ、桜稀。
俺はバカだから、分かんねえけどよ。
あんまり、難しく考え過ぎたらダメだぜ。
自分の今が、何より大事なんだからよ。」


『空琥らしいな。』


桜稀は手紙を空琥に手渡す。


『預けた。
ちゃんと入れてこいよ。』


「あ、ああ。」


走り去る空琥を見て、桜稀は息を吐く。

その視線の先には、楽しげな妖館の皆に囲まれた、凛々蝶の姿があった。
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