桜契り(妖狐×僕SS・御狐神寄り)

□第八話 過去の猫
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――八年前――

それは、双熾と桜稀の出会いから始まった。


「…………。」


会場を回る双熾は、主人の隙を見て、ある女性を探していた。
自由になるために……。


『んっんっんー。』


しかし、双熾の目に入ったのは、一人の少女。
鼻歌混じりに、パーティー会場を回っている。


『あっ、ケーキ。
んっと……んんっと!』


桜稀は小さな腕を伸ばして、ケーキを必死に取ろうとしている。


「お取りしましょうか?」


双熾がケーキを取って渡すと、少女は笑顔になる。


『お兄ちゃん、ありがとう!』


それが、双熾と桜稀の出会いだった。


――――――――――――


『お兄ちゃん、こっち。』


桜稀は双熾を庭に連れてくる。


「あまり離れては……。」


『大丈夫だよ。
あの柵の外に行かなかったら、怒られないもん。』


桜稀は、池を覗き込みながら言う。


「(自分より年下の相手なんて、したことがない……。)
お名前は、何とおっしゃるのですか?」


『桜稀。』


「桜稀さまですか。」


桜稀の無垢な表情に、双熾はどうしたらいいのか、分からなくなる。


『お兄ちゃんは?』


「双熾といいます。」


『そーしだね。
分かった!』


桜稀は双熾の顔を覗き込む。


『そーしは、パーティーきらい?』


「どうしてですか?」


『だって、こわいかおしてたもん。』


「そんなこと、ないですよ。」


『ほんと?』


「ええ。
人を捜していたので、そう見えたのかもしれませんね。」


『人?』


「ええ。」


桜稀は、川に石を投げたりして遊ぶ。


『そーしもあそぼ。
たのしいよ?』


「桜稀さまを見ているだけで、楽しいです。」


『わたしを見てても、なにも出てこないよ。』


桜稀はそう言って、双熾の手を握る。


『あっちに、お花がいっぱいあるところがあるの。』

「桜稀さま。
それよりも、中へ帰りませんか?
お父様やお母様が心配なされますよ。」


『いないもん。』


「え?」


『お父さんもお母さんも、いないもん。』


桜稀が顔を歪める。


「僕と一緒ですね。」


『そーしも、一人?』


「はい。
一人です。」


『そーし、淋しかったよね。
よしよし。』


桜稀は双熾の頭を撫でる。


「桜稀さま?」


『こうやったら、いやなことがなくなるんだよ。
よしよし。』


すると、桜稀を呼ぶ声がする。


「勝手に行くなって行ったでしょ、桜稀。」


『あやめちゃん!』


「……!?
(青鬼院菖蒲……。)」


「その子は……。」


『そーし、淋しいの。
あやめちゃん、何とかしてっ!!』


双熾は、菖蒲に頭を下げる。


「話を聞いていただけませんか。」


――――――――――――


その後、双熾は菖蒲に桜稀の話を聞いた。

鬼の中でも強いと言われる、羅刹の先祖返り。
そのため、家族にさえ嫌遠されてしまった。
ずっと、孤独と戦っていた少女。

なのに、双熾の事を気にかけてくれたのだ。


「ずっと、この世界はエゴだけで回っているのだと、思っていました。
でも、そうじゃなかったのですね……。」


自分に与えられた、鳥籠のような部屋を見渡す。


「僕なんかにも、差し伸べられる小さな手があった……。」


二度と会うこともないかも知れない。
その少女に思いを馳せる……。

その時、閉められた窓に石が当たる。


「…………?」


窓を開くと、柵ごしに桜稀の姿があった。


『このおうちの木、高くてよかった……。』


「桜稀さま?」


『そーし、元気?』


桜稀は双熾に手を伸ばす。


「行けませんよ。」


『ダメだよ。
そーしはじゆうなんだよ。
じゆうからにげたらダメ。』


桜稀は笑顔になる。


『私が絶対に出してあげる。』


双熾は桜稀の手を取る。


「桜稀さま。
ありがとうございます。」


こってり、菖蒲に絞られた桜稀だったが、双熾の笑顔が見れたのだ。
これが原因で、今の人助けの性格になったと行っても、過言ではない。

そして、この事件があったからこそ、双熾は自由になったのだ。
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