桜契り(妖狐×僕SS・御狐神寄り)

□第五話 学ぶ猫
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彼女の元に舞い込むのは、相談だけではない。


『この文章から、ここはaの選択肢しかなくなる。』


「でもよ。
これって、反対じゃない?」


『だから、最初の段落に書いてあっただろ。』


「……ややこしくね?」


『ややこしくなかったら、問題にならん。
……あ、ここの活用形。』


約一名、何かと聞きにくるのだ。
テスト前でもないのに。


「ほーほー。」


『本当に分かってるのか……?』


「多分。」


いい加減な反ノ塚に、桜稀は肩を落とす。


『俺より、先生に聞いたほうが、いいんじゃねーの……?
俺が教えるより、よっぽど良いだろ。』


「えー。
俺、桜稀の説明だから、寝ずに済むのに。」


『はぁ。』


桜稀は反ノ塚を見上げる。


『そういえば、最近はどうなんだ?』


「何が?」


『また、不良に目をつけられたり。』


「あー、大丈夫。大丈夫。」


『能天気すぎるのも、どうかと思うぜ。』


しかし、反ノ塚は桜稀を真剣な表情で覗き込む。


『なっ、何だよ。』


「俺から見たら、お前の方が無理してるような気がする。」


『俺がか?』


「お前が倒れた時、困るのは周りなんだぜ。
俺は、面倒だから放っとくけど。」


反ノ塚は桜稀の頭を撫でる。


「人に頼られるのは、慣れてるのにな。」


『別に、頼られてるわけじゃない。
自分がやりたくてやってるんだ。』


「俺はお前に頼りっぱなしだけどさ。
時には、男らしく頼られたいんだよ。」


桜稀は目を点にする。


『お前らしくない。』


「そんな時もあるの。」


その時、生徒会室の扉が開く。


「桜稀さんっ!」


『お前ら、入ってくるなよ!
また、俺がどやされるだろ!!』


桜稀は反ノ塚に言う。


『悪いけど、続きは帰ってからな。』


「いってらっしゃーい。」


反ノ塚は桜稀の分も片付ける。


「俺の言ってる意味、ちゃんと分かってんのかな。」


――――――――――――


『疲れた……。
だから、名前だけ出しゃ大丈夫ってんのに。』


桜稀が空を見上げると、茜色に染まっていた。


『逢魔が時か……。
サクッと見回りして、帰るとするか。』


桜稀は校舎を周り始める。
すると、人の気配を感じ、駆け寄る。

そこには、しゃがんだ凛々蝶の姿があった。


『どうしたんだ?』


「いや……。」


『悪い。
俺が驚かしちまったのか。』


その時、背後から水の滴る音がする。

とっさに、二人は避け、変化する。


「ふん。
やっぱり出たな。」


『こいつは……。』


「【濡れ女】か…。」


その時、背後から声がする。


「おい。
体張るのは、男の仕事だぜ!」


そこには、狸に変化した渡狸の姿があった。


「女子供は下がってな!」


『卍里!
避け……。』


卍理は濡れ女の尻尾で叩かれる。


「渡狸くん!!」


「お、俺のシマで、勝手なマネはさせねー…。」


「無理するな、下がってろ……!」


「無理だと、ナメんなよ!!
狸だって、狐に負けねーぐらい、化かすのは得意なんだぜ!」


渡狸は分身し、濡れ女に向かう。


『卍里、良く言った!!』


桜稀と凛々蝶が、濡れ女の隙を突き、倒す。


「やったか。」


「ふん。
こいつらに【死】はない。
これも、朝には跡形もなく消えて、またどこかで生じるだろう…。」


凛々蝶は渡狸の頭を撫でる。


「今回は助かったと、言ってやらん事もない。
なかなか、悪くない術だったぞ…。」


「だから、触るなっ。」


その時、濡れ女の尻尾が動き、凛々蝶と卍里を襲う。


『凛々蝶っ!卍里!!』


桜稀は濡れ女を仕留め、助けに行こうとする。
しかし、その前に二人を助けようとする姿があった。


「ちよちゃん…渡狸。
落ちちゃうよ…?」


がしゃどくろの姿になったカルタが、凛々蝶と渡狸を受け止める。


「髏々宮さん…。
でも、渡狸くんは…?」


「渡狸…。」


唯一、救出された渡狸は、もとの姿に戻る。


「おう。
よく判ったな。」


「うん、わかるよ。
第六…じゃなくて、五感…もダメで…五臓六腑?で…。」


「それ、違うな。」


後輩の無事な姿を見て、桜稀は安心し、その場を去った。


――――――――――――


学園の外には、一台の車が……。
中には、双熾と残夏、空琥の姿があった。


「うん、大丈夫。
誰も写メなんか撮ってないみたい。」


「良かった。
握り潰さなければいけないところでしたね。」


「いやん、怖ーい


「近づくな、腹黒。
特に桜稀には!」


「若者達の青春に、幸あれってね


その時、後部座席のドアが開く。


『学園の前で、路駐は止めろ。
通報されるぞ。』


「桜稀!」


「桜稀さま。」


「やっほー、桜稀たん!」


すると、桜稀に後輩らしき女子が近づいてくる。


『とりあえず、さっさと帰れ。』


「えー、そんな寂し……。」


『お前らみたいなのに覗かれてると、気が気じゃねーんだよ。』


桜稀はそう言って、女子の元へ向かう。


「調理実習で作ったクッキーだって。」


「毒味っ!毒味しに行かな……!」


「大丈夫だよ。
毒はないから……。」


しかし、その女子の後ろに、たくさんの生徒の姿が……。


「これは……。」


「やべぇな……。」


「ライバルがいっぱいだね。
そーたん、空琥たん。」


第五話 学ぶ猫
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