桜契り(妖狐×僕SS・御狐神寄り)

□第一話 気まぐれ猫
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――時間は重みだ、と誰かが言った。
私は、重みのある時間だからこそ、何かのために使いたい。――


「起きろ、桜稀。」


―それが、私の行動原理だ。
誰かのためだなんて、偽善に聞こえるだろう。
それに気づいていても、やってしまうのだ。――


「おい、バカ。
飯、俺が食っちまうぜ。」


――そういうところは、彼に似ているのかもしれない。
まあ、強情で頑固な私と彼では、本質からして違うのだろうが……。――


「早く起きろよ〜。
俺は腹がスッカラカンだぜ。」


『あと30分……。』


「んなに、待てるかっ!
ってか、今日は双熾が挨拶に来るんだろ!?」


『そうだよ……そーしが…………双熾……。』


「今日から、SSしに来るって。
一ヶ月も前から、言い続けてたじゃねーか。」


『……まっ、まずっ!
もう昼じゃんか!!』


携帯の時間を見て、騒ぎだす女。
それを見て、隣の男が笑う。


『お迎え、間に合わねー!!』


「その格好はヤバイって……。
おい、桜稀!
人の話くらい、聞きやがれ!!」


そのままの格好で駆け出す女を、男が追いかける。

女は、エレベーターに乗り込み、一階へ向かう。
そして、扉が開いたと同時に、入り口へ走った。


「おっ、桜稀。
ってか、その格好は……。」


「桜稀ちゃんっ!メニアックよ!!」


周りの話も聞かず、彼女は走る。


『3……2……1……いまだっ!』


玄関を開き、彼女は叫ぶ。


『双熾っ!久しぶり!!』


目の前の銀髪の男は、金と青緑のオッドアイを一瞬だけ見開くと、いつもの笑みを浮かべる。


「桜稀さま。
お久しぶりです。」


男は笑顔を崩さずに言う。


「桜稀さま。
早速ですが、その格好はどうなさったのですか?」


『…………格好?』


女が窓に映った自身の姿を見ると、寝巻の浴衣は着崩れ、髪はボサボサだった。


「このバカが。
せめて羽織って行けよ。」


女にカーディガンをかけたのは、部屋に起こしに来ていた男だった。


「よっ、双熾。」


「お久しぶりです、空琥。」


二人は目を合わせ、笑みを浮かべる。
片方は黒いオーラを浮かべ、もう片方は不敵に。


「桜稀さま、お身体が冷えます。
早く入りましょう。」


『俺は、そんなに柔じゃないぞ。』


「桜稀、まずは飯だ。」


『お前は、食い意地張りすぎな。』


三人は妖館に入っていく。
これが、全ての始まり。


――私達は巡り続ける。
これからも、そして…………これからも。――
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