薄桜学園3年Z組

□試食して腹壊したら、どう責任とるんじゃ!
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調理実習。
良い響きだ。

美味しい匂いと楽しげな会話。
洗い物の押し付け合いをして、放課後に配る。
何より、座っていなくて済む。


『シチューとオムレツとサラダとクレープとクッキーか。』


「豪華だね。」


今回の調理実習は、グループごとで一品ずつ作る。


『味見用にも作らなきゃってのが、大変だな。』


登校時の荷物も、いつもより多い。
というのも、食材から自分達で用意しなければならなかったからだ。


『蓮と蘭の荷物、少なくない?
私なんて、両手に一杯よ。』


『うちは、千景が持ってくるんだよ。
やるなら、最高級の食材を……って。』


『私は、銀兄ぃに預けてきた。
どうせ、歳三の車に乗せてもらうんだし、いいでしょ?』


『……私も、お兄様に預ければ良かった……。』


『「…………。
(人使いが荒い……。)」』


『まあ、とりあえず頑張ろうぜ!
これ出来ないと、昼飯が無えんだしよ。』


「飲まず食わずは、嫌ですもんね。」


校門を通り抜けようとした時、前に二人の男子生徒が立ちはだかる。


「あんた達。
今日は行かせんぞ。」


「大人しく、失点をつけられな。」


立ちはだかったのは、風紀委員の一と薫。


「千鶴。
お前はスカートが短いと、何度言ったら分か……。」


「斎藤さん。
おはようございます。」


「あっ、ああ。
おはよう……って、違う。
今日は絶対に流れないからな。

あと、向日葵もだ。
女子が足を出して……。
蓮は、その長いスカートを何とかしろ。
いつの時代だ。」


『短いよりはいいじゃん。』


「そういう問題じゃない。
そもそも、スカートの長さは校則で決まっていてだな……。」


一と押し問答を繰り返している間、薫と椿は睨み合う。


「いい加減、直しなよ。
スカートの長さも、ボタンも、化粧も。」


『どうしようもないわ。
髪を染めていないだけ、マシよ。
それに、化粧もしてない。』


「誤魔化されないよ。」


『本当よ。
私の顔立ちが、お兄様似で綺麗だからって、勘違いしないでちょうだい。』


「誰が、綺麗って言った?
耳、本当に大丈夫?
病院に行った方が、いいんじゃないの?」


『別に、大丈夫よ。
耳が聞こえなくなることなんて、お兄様と総司さんの声が聞こえなくなること以外は、さして問題ではないもの。』


「ごめん。
君が行くのは、精神科の方だった。」


まだ続きそうな二人の会話に、蓮が終止符を打つ。


『逃げるが勝ちっ!』


『ちょっ!
何するのよ、蓮!』


走りだし、校舎の中へと逃げようとする。
その時、前方から来た歳三とすれ違う。


『おはよう、歳三っ!』


「おはようございます!」


「待ちなよっ!
まだ、お前達には!」


『歳三、後で職員室にも持って行ってあげるからっ!』


「聞いてるの!」


薫の叫びも虚しく、今日も逃げられてしまった二人。


「気にすんな。
あいつらは無理だ。」


「しかし……。」


「すんなり捕まったら、それはそれで怖いしな。」


「……はあ、惚れた弱みって奴だね。」


「何か言ったか?」


「いや、何も。」


とはいう薫も、妹を見逃している時点で、同じ気もするのだが……。
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