シリーズ

□そんな君に期待
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【別れは必ず訪れる。】


そんな言葉、すっかり忘れていた。
総司さんがいて、私がいる。
それが、当然だと思っていた。


『総司…さん……?』


目覚ましが、けたたましく鳴る。
いつもは、一番に総司さんの顔が視界に入るのに……。

私はベッドを下りる。
すると、総司さんの布団が畳まれてある。


『あれ?』


そこで、頭がはっきりした。
総司さんがいない。


『総司さん……?』


洗面所にも、お風呂場にも、台所にも。
どこを探しても見つからない。


『お母さん!』


「どうしたの?」


「朝からバタバタして、うるせーよ。」


トーストをかじる弟の横に、総司さんの姿はない。


『お母さん、総司さんは!?』


「総司さんなら、朝早くからお出かけよ。」


「おかげで、稽古付き合ってもらえなかったんだよなー。」


「いつもしてもらってるんだから、時にはいいじゃない。」


いつもの笑みを見せる母に、私は安心する。
考え過ぎだった……と。


『それで、総司さんはどこ行ったの?』


「京都よ。」


『え……?』


京都。
そこは、紛れもなく新選組のあった場所。
私の知らない総司さんが、たくさんの思い出を作っていたであろう場所。


『……京都。』


帰る手がかりがあるかもしれない。
しかし、それは総司さんと別れるということ。


「真鑼?」


『ごめん、出かける。』


私は急いで着替えると、鞄を持って家を出る。

考えたくなんかないのに、勝手な考えが頭に浮かぶ。
総司さんが選んだのは、私じゃなくて、新選組なんだと。


『だからって、勝手に行っちゃうなんてヤダ。
置いてかないって、言ったのに。』


――――――――――――


電車に飛び乗った後のことは覚えていない。
気づけば、京都の町についていた。


『ここが、京都。
新選組が……総司さんのいた場所。』


私は地下鉄に乗り換え、【壬生】を目指した。
そこには、新選組の屯所があるらしい。
そこに行かなきゃならないと、直感したから。


狭い道に入り、少し歩く。
すると、そこには新選組屯所と壬生寺があった。
寺に入った私が見たのは、墓の前に佇む総司さんだった。


『総司さん……。』


「真鑼ちゃん。
どうして……?」


『良かった、いてくれて。』


すると、総司さんが手招きする。
私が総司さんの隣に立つと、総司さんがお墓に話しかける。


「近藤さん。
僕、大丈夫ですよ。
最初は寂しかったけど、真鑼がいてくれたから、僕はここで生きていられる。
最後まで、近藤さんの傍にいたかったけど、今はここにいられることが嬉しい。」


総司さんは私を引き寄せる。


「紹介しますね。
彼女が命の恩人で、僕の恋人の真鑼です。
僕が近藤さん以外で、初めて命を賭けてもいいと思った人なんです。
だからって、簡単に死にたくないとも思うんですけど……。

近藤さん。
僕は幸せです。」


総司さんは、今まで見たことないくらい穏やかな笑みで言った。


『ここが、近藤さんのお墓なの?』


「そうみたい。
だから、ちゃんと挨拶しておこうと思って……。
今の僕は、君といられて幸せだって。」


『そっか……。』


近藤さんに認めてもらえたかは分からない。
けど、総司さんの話す近藤さんなら、笑顔で背中を押してくれそうな気がする。


『え……?
じゃあ、帰っちゃうんじゃないの?』


「帰る?
何のこと?」


『あっ、良かった〜。』


一気に肩の力が抜けた。
腰が抜けなくって、本当に良かったと思う。


「そうだ、せっかくだから色んな所に行こう。
君に、君の知らない新選組の僕を知ってもらいたい。」
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