空色スパイラル3

□第百九訓 華より団子
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銀時と愛は、団子屋【魂平糖】の前にいた。


「相変わらず、シケた店だな。オヤジ。」


「相変わらず、シケたツラしてるね。旦那。
ヘヘッ。」


「今時の甘味処は、パフェだのケーキだの、華やかなもんだぜ。
団子だけって、アンタ…美味いけどよ。」


『このままじゃ……。』


「俺ァ、団子屋だよ。
コレしか能がないんだっつーの。

アンタらも、まだそんな木刀[モン]腰にさしてんのかィ。
今時…侍って。」


「おしゃぶりみてーなモンだ。
腰に何かさしてねーと、落ちつかねーんだよ。」


旦那は遠い目で迎えの店を見る。


「ハァー、アナログ派にはキツい時代だな。」


「ありゃ、なんだ?」


『すごい行列っすね。』


「最近できた【餡泥牝堕】とかいう甘味処でね。
あらゆる星の甘味を味わえるってんで、あっという間にあの人気…。

わずかにいた客も、全部吸いとられちまった。
ヘヘッ。」


「…やっぱ、看板娘とかいねーと、ダメなんじゃねーのか?
あ、パンツ見えた。」


「看板娘なら、ウチにだっているよ。
あ、パンツ見えた。」


『あれは、スパッツだよ……。』


愛は呆れながら、団子を口に含む。


「看板娘じゃねーよ、ありゃ。
岩盤娘の間違いだろ。」


「女は見た目じゃないよ、旦那。
見ろあのケツのデカさ。
丈夫な子産むよ、ありゃ。
愛さんと交換しよーや。

ヘヘッ。
あ、パンツ見えた。」


「見たくねーんだよ、んなモン。
それに、愛は万事屋の看板娘だ。
死んでも手放せねえ。」


すると、団子屋の娘が銀時の横に団子を置く。


「銀さ〜ん、愛さ〜ん。
ハイ、これどーぞ。
私からのサービス


銀時は愛の腕を取り、立ち上がる。


「オヤジ、そろそろ帰るわ。俺。」


「待て、跡とり。」


その時、派手な着物の男が訪れる。


「あっ、いらっしゃいませ。」


銀時と愛は遠目にその客を見る。


「オッ、客だ。
よかったな、オヤジ。」


旦那の娘が注文を聞きに行く。


「ご注文、何になさいますか?」


「団子、しかないんでしょ。
どうせ。」


団子屋の空気が変わる。


「…………。」


『団子屋だから、団子しかないっちゃ……ないけど。
なんか、嫌味な人っすね。
何様っすか!?』


「【餡泥牝堕】の旦那…あの、新しくできた店の旦那だよ。」


旦那は男の所へ近づいていく。


「いやーいやー、これはこれは。
【餡泥牝堕】の旦那。
お忙しい中、こんな汚ねー店に、よくぞいらっしゃいました。
ヘヘッ。」


「たまには、こういう質素な店で食べたくてね。
どう、景気の方は?」


「おかげ様で、この通り素寒貧でさァ。
ちったァ、客よこしてくださいよ。
ヘヘッ。」


男は煙管を吹かせながら言う。


「だから言ったでしょ。
おとなしく、この店を私に売り払って、隠居しなさいって。
もう団子は時代遅れよ。
こんな地味な店に、お客がつくわけもない。

この辺一体を、我が餡泥牝堕の甘味通りにするのが、私の夢なの。
この星には、粗雑で野蛮な甘味が多すぎるわ。
ここを拠点に、この国に本当の甘味を広めるのよ。」


「いや、こんな店でも四百年、細々と受け継いできた団子屋なんでね。
俺の代で、この味おいそれと途絶えさせちまうわけにも、いかんでさ。

それに、こんな店にもこの味慕って、来てくれる客も、まだいるんでね。」


「フン、古き伝統の味ってわけ?
でも、本当に残るべき味というのは、お客が決めることじゃなくって?

どう?一つ私と勝負しない。
今度、宣伝をかねて催しをやるんだけど。」


男は懐からチラシを取り出す。


「このまま意地を張って、団子屋を続けても、いずれ潰れるのは、明らか。
私に勝てば評判があがり、また客足をとり戻せるかもしれないわ。
勝負はあなたにあわせて、団子にしてあげるわ。
お互い、団子をつくって、一時間の客の入りを競い合うの。

勿論、私が勝てば、この店はいただくけど。
あなたのいう伝統の味なら、負ける事なんてないわよね。
どう、一世一代の賭け。
やってみない?」


男は立ち上がる。


「それとも、その四百年の伝統の味に自信がないのかしら。
まぁ、無理強いはしないわ。
あとは好きにするといい。」


「あの…団子!」


「いらない、そんな田舎くさいもの。
とても食べられやしない。」


「…………。」


「父ちゃん…。」


親子は男の背中を眺める。


「ここらが、潮時かね。」


すると、銀時と愛が、お盆に乗っている団子を手に取る。


「それって、団子タダで食べ放題ってこと?」
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