空色スパイラル2

□第百訓 鍋は人生の縮図である
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万事屋四人は、コタツで鍋を囲む。


「今年も、もう終わりですね。」


「早ェーな、もう嫌んなっちゃうな。
年をとるごとに、早くなっていくよ、一年過ぎるのが。

この調子じゃ、ジジィになった時は。
F1カーが通り過ぎる並のスピードで、一年が過ぎるんじゃねーの。」


「いやいや、恐い事言わないでくださいよ。」


「いやいや。
俺なんか、もうベンジョンソンが走り去る位の速さまで来てるからね。
もう来てるからね、そこにベンが。」


『なんか、こんなに一年が早いと、もったいない気がするっすよね。』


「お前らもな。
若いからって、調子に乗ってると、スグ来るよ。
ベンが。」


「マジかヨー、ベンが来るのかヨー。
私、ベンよりカールの方がいいネ。
カッケーアル。」


「まーまー。
要は、充実した一年を送ったってことじゃないですか。
今年も、色々ありましたもんねー。」


「そーさなァ、百回記念ということもあるし。
ちょっと振り返ってみるか。」


「ということで、百回記念【あんな事もこんな事も、どんな事もあったね】総集編スペシャル。
スタート。」


しかし、いつまでも総集編は始まらない。


「…ちょっと…総集編って言ったじゃん。
振り返ろうって言ったじゃん。
誰か振り返れ、オイ。」


「いや、でも鍋の火加減見なきゃいけないんで。
僕、鍋見てるんで三人で振り返っちゃってください。」


「鍋は俺が見るから。
新八、お前いけって。」


『じゃあ、私が…。』


「「愛〔さん〕は大丈夫だ〔です〕。」」


「新八、司会向いてるって。自信持てって。」


「うれしくねーんだよ、司会向いてるとか言われても。
神楽ちゃん、いってよ。」


「イヤアル。
だって、よそ見してる間に、肉食べられるモン。」


皆、目が点になる。


『神楽…。
ごめんね、いつも美味しいご飯、食べさせてあげられなくて。』


「愛は悪くないネ!
悪いのは、働かないプー太郎二人ヨ!!」


銀時は額に手を当てる。


「ちょっ…もう、ホントさァ。
いい加減にしろよ、お前は。

そんなさァ、そんなしょうもない事、俺達がするワケないだろ。」


「ホントさァ、年の終わりにさァ。
哀しくなるような事、言わないでくれない?

確かにスキヤキなんて、俺達滅多に食えないけどもね。
一年の区切りにさァ奮発して、みんなで楽しくつつこうって時にさァ。
お前って奴は…ホント俺、情けなくなってきたわ。」


「……………。」


「…今のは、神楽ちゃん悪いよ。
ホラ、誤って。」


「…んだよ、チキショー。
悪かったヨ、ビンボくさい事言っ…。」


次の瞬間、銀時と新八の箸が、鍋に突き立てられた。




新八が鍋の周りを拭きながら言う。


「あーあ。
貴重な肉が四散してしまいましたよ。」


「てめーらが、強く引っぱるからだよ。
はしゃぎ過ぎなんだよ、スキヤキ如きで。」


「チッキショー、だましやがって。
お前らのせいで、私の心はどんどん薄汚くなっていくネ。」


「そうやって、人は大人になっていくんだよ。
よかったな、また一歩大人になれたじゃん。」


『でも、銀時…。』


「愛、これも大事なことだと思うぜ。
時には、厳しく接することで、子供は成長していくんだ。」


『そっか!』


銀時は愛に優しく言うと、再びジト目で神楽を見る。


「大体、食卓は戦場だって教えたろ。
忘れたか、コラ。」


「銀ちゃんの言うことなんて、もう信じないネ。
もう、みんな敵ネ。
誰も信じないネ。」


「いい心がけだ、もっと俺を憎め。
その憎しみのパワーを糧に、この腐った世の中を生き抜いていくんだよ。」


「腐ってんのは、お前の頭アル。

愛、そいつの横にいると天パが移るネ。
こっちに来るヨロシ。」


『私、元から天パ…。』


「愛は俺の横で食べるの。」


「何を言うネ!
愛は私と食べるヨ!」


すると、新八の箸が放られる。


「僕、もういいっすわ。
喧嘩してまで、食べたくないですもん。
こんなん、情けない。

実は昨日、姉上と二人で焼肉、食べたんですよ。
もう飽きたっていうか…。
いつでも食べれるっていうか…。
どうぞ三人で、とりあってください。」


すると、銀時も箸を置く。


「しょうがねー。
まァ、俺も別に肉食べたかったワケじゃないしィ。
みんなに食べてもらおうと思って、やったことだしィ。

こんなんなるんだったら、やめっか。
俺はいいけど、マジでいいの?お前ら。」


「上等だヨ、コルァァァ!!
私だって、別に肉なんて食べたくないモンね!
ベジタリアンだモンね!!」


「やめだ、やめだ。
スキヤキなんて。」


愛も、しょんぼりしながら箸を置いた。
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