空色スパイラル2

□第八十七訓 走り続けてこそ人生
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現在、銀時と愛は源外の【からくり堂】にいた。


「おうおう。
キレイに直ってるじゃねーか。
ほとんど全壊してたのに、スゲーな。オイ。」


『流石っすね、源外さん。』


二人の前には、前に悪の組織によって…。
いや、ほぼ銀時によってボロッボロにされた原チャリが、新品同様の姿であった。


「あったりめーよ。
俺を誰だと思ってんだ。」


「指名手配犯。」


「お前は、人の傷口ほじくって楽しいか?」


「冗談だよ〜。
ホラァ、バイクの傷口をほじくってくれたお礼にさァ。
俺もアンタの傷口を…。」


「ほじらんで、ええわい!」


銀時は愛の頭にヘルメットを乗せる。


「いやいや、アリガトよ。じーさん。
さすが、江戸一番のからくり技師、平賀源外だ。」


「わかりゃいいんだよ。
で、金のことなんだがな。」


「また、なんかあったら。
よろしく、メカドックな。」


『また、遊びに来まーす!』


「いや、金のことなんだがな。」


「じゃーな。」


「いや、金…。」


銀時が進み始めた時、バイクの後輪がとれる。


「ん、うごぉぉぉぉ!!」


『こっ、後輪がっ!』


「ジジー。
てめっ、細工してやがったな!」


「フン…金の切れ目が縁の切れ目だ。
あばよ。」


「おわわわわ!!」


『銀時!前!!』


二人の前には、原チャリに乗ったジャージの女の子。


「!!」


『銀時!!』


しかし、原チャリがスピードを落とすことはなく…。


「うわァァァァァァァァァ!!」


銀時と愛は、尻餅をつく。


「いでで。
愛、大丈夫か?」


「私はね…でも。」


「オイぃぃぃ!大丈夫かァ!?」


源外も慌ててかけてくる。


「オメー、一般人に迷惑かける奴があるかァ!!
姉ちゃん、大丈夫か?」


「アンタが、車輪に細工なんかしなきゃ。
こんな事には、ならなかったんだよ。
クソジジー!!」


「おい、大丈夫か!?」


『大丈夫っすか!
頭、強打してたけど…。』


「しっかりしろ、ネーちゃん。オイ!!」


すると、ジャージの女の子は上半身を起こす。


「大丈夫です。
ちょっと転んだだけなんで…。」


「大丈夫ですって、血だらけだぞ。オイ。
動くな!」


女の子は、バイクのハンドルを持つ。
しかし、バイクは全壊していて、ハンドルのみになっている。


「いや、ホント大丈夫です。
私、ホントちょっといかなきゃダメなんで。」


「どこへ!?
無理!無理無理無理!
違う所いっちまうぞ!!」


すると、女の子は苦しみ始める。


「!!
うごっ…苦し。」


「オイぃ!!しっかりしろ!」


「バ…バイクを早く、私をバイクに。
私…走り続けないと…風を感じないと…死んじゃうん…。」


『あっ!ちょっ、大丈夫!?』


「…なんだ、コイツ?」






原チャリを直す源外が呟く。


「魔破のり子、快速星出身。
職業、飛脚か…。

…噂にゃ、きいたことがあったが。
こんな厄介な種族が、ホントにいたとはなァ。」


『なんか、面倒っすね。』


すると、銀時の背中に負われたのり子が言う。


「そんな言い方やめてください。
私達は風の精霊とも呼ばれる、由緒正しき風の民なんです。

いつも、風をまとっていないと、身を保てない。
繊細な、ホントッもうほとんど妖精みたいな、可憐な種族なんです。」


「いやいや、そーいうロマンチックなものいいは、もういいからよ。

要するに、何?
いっつも走ってないと、ダメってこと?
常に泳いでねーと死んじまう、サメみたいな連中ってこと?」


「いえ。
バイクとか、とにかく風をあびれる乗り物に乗っていれば、なんとか。
…自分の足で走るのは…あの、タルいんで。」


「じゃあ、自分で走れや!
なんで、俺がバイク役やんなきゃいけねーの!?」


「くっ、苦しい。
スイマセン、もうちょっとスピードを…。」


「誰が一番苦しいと思ってんだ!!」


源外が、呑気に言う。


「手負いの女を走らせる訳にも、いかねーだろ。
しばらく、足になってやれ。
もうちょっとで、バイクも直るからよ。」


「てめーは、ガチャガチャやってるだけだから、いいけどよォ。」


『なんなら銀時、私が変わろうか?
私のほうが、足は速いから。』


「…しょうがねーな。
愛に背負わすわけには、いかねーし。」


「ごめんなさい、ご迷惑おかけして。
あの…私なにもできないから、【サライ】歌います!」


「24時間、走れってか!?」


のり子が言いにくそうに言う。


「あのォ…そのオンボロバイクは後にして、先に私のバイクを直してくれませんか。
私、仕事が…。」


「オイ。オンボロバイクって、なんだよ。」


「オメーのバイクは大破しちまって、直すのに時間がかかる。
代わりに、コイツのに乗ってけ。」


「オイ。代わりにって、なんだよ。
それ、俺のなんですけど。」


「だが、オメー。
その怪我で、バイクになんて乗れるのかィ?」


「乗れます。

郵便受けの向こうで、私を待ってくれてる人達がいるんです。」


のり子は目を伏せながら言う。


「それに、私。
実は、これが地球での初仕事なんです。
こんな私じゃ、まともに働ける所がなくて、あちこちの星を回ってきて。
もう私には、ここしかないんです。
失敗なんか、できないんです。

負けられない。
私、絶対負けられないんです。
宇宙一の飛脚になるって、もう心に決めたんです。」


『のり子ちゃん…。』


「下ろしてください!
私は、こんな所でモタモタしてる暇、ないんです!!」


「オメーが、おぶってくれって、言ったんだろーが。」


「あなた達みたいな、暇人につきあってる暇なんて、ないんです!
早く下ろしてって、言ってん…うがァァァァ!!」


地面に落とされたのり子は、胸を押さえて、吐血していた。
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