空色スパイラル2

□第八十一訓 扇風機つけっぱなしで寝ちゃうと お腹こわしちゃうから気をつけて
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蝉の鳴く音と、風鈴の音に囲まれる四人。
万事屋は現在、暑さで仕事どころではない。

うちわで扇ぎながら、ダウンしてる新八が、氷水に足を浸した銀時と愛言う。


「462。」


「何それ?」


『今日聞いた、蝉の鳴き声の数っすか?
違うよ、もっとあった…。』


「違いますよ。
今年の夏、熱中症でぶっ倒れた人の数ですよ。」


扇風機にあたってる神楽が、口を開く。


「マジでか。」


「銀さん。
やっぱ、エアコン買いましょうよ。
今年の猛暑は、扇風機だけじゃ乗り切れませんって、コレ。」


「バカ言ってんじゃねーよ。
そんな金、どこにあんだ?
エアーをコンディショニングする暇があるなら、マインドをコンディショニングする術を覚えろ。
心頭滅却すれば、南極もまた北極だよ。」


「銀さん。
言っとくけど、南極は南って言ってるけど、別に常夏じゃないからね。」


銀時は、扇風機を一人で占拠する神楽を、スリッパで叩く。


「あん?わかってるよ、お前。
南極が、お前。
常夏のパラダイスのわけねーだろ。

つまり、俺が言いたいのは、心頭滅却してもアレ…何も変わらないよね。」


「恥ずかしい!
間違いを隠すために、自論を捨てやがったよ!
ひどいよ、この人!上のやりとりがパーだよ!」


銀時は、神楽と扇風機の取り合いを始める。


「大体、こんな日に外出てみろ。
エアコン買う前に、バタンキューだ。
こういう日は、おとなしく家でゴロゴロしてるに限るの。」


『家の中で、扇風機のみってのも、時間の問題だよ…。』


「ハァー。
頼みの綱は、扇風機だけか。
みんな、大事に使いましょうね。」


新八が言った瞬間、不吉な音と共に、扇風機の頭が折れた。






銀時と愛は、炎天下の中で信号待ちをしている。


「あ、やっぱダメだ。
心頭滅却しても、暑いもんは暑い。
誰だ、こんないい加減な格言残した奴は?」


『まあまあ。
さくっと扇風機を買って、さくっと万事屋に帰ろう!』


「つーか。
なんでこんな暑い日に、扇風機なんか買いにいかなきゃならねーんだ。
腹立つな。
腹立つから、エアコンに乗りかえてやろうかな。」


銀時は隣に止まってた車の運転手に声をかける。


「なァ、オッさん。
いいかな?
俺ら、エアコンに乗りかえちゃっていいかな?」


「え?…いや、まァ。
いいんじゃないの。」


「いいわけねーだろ。
エアコン買う金なんて、どこにあんだ?
余計な口を挟むな。」


『銀時が聞いたんでしょ…。

でも、扇風機を買うお金もギリギリなのに、エアコンは不可能っすね。
夢のまた夢。』


信号が変わる。


「つーか。
なんか、おかしくねーか。
なんで、涼しくなるためのマシーンを、汗だくになって買いにいかなきゃならねーんだ?

埋蔵金を埋蔵金で掘るようなもんじゃねーか。
飲む前に飲むようなもんじゃねーか。」


『んー。
微妙な例え…。』


「次の扇風機がウチ来ても、とりあえず無視だな。
三日三晩、壁にむかって微風を吹かせ続けてやるよ。」


『うん。
多分、三日と保たないな…それ。』


「あー、腹立つホント。
エアコン買おうかな。

あ、でも金ねーんだ。」





二人は一つ目の電気屋に行く。


「は?扇風機?
スイマセン。ウチは置いてないわ、そーいうの。
ホラ。今の時代、もうエアコンでしょ?クーラーでしょ?
そんなの置いてても、売れないからさァ。

お兄さん達も、どう?
これを機会に、エアコンに乗りかえたら?
安くしとくから。」


『やったぁ!』


「マジっすか。
じゃ、お願いします。
あの。お金の方は、これ位でなんとかしてほしいんですけど。」


銀時は千円札を取り出す。


「よってらっしゃい、見てらっしゃーい!
夏の大売り出しだよ〜!!」


「アレ?おじさん?
おかしいぞ。
おじさんが目を合わせてくれなくなった。
おじさーん。」


その後も、二人は様々な電気屋を回った。
しかし、扇風機が欲しいと言うと。


〈扇風機?ないない。
骨董屋にでも、いった方がいいんじゃないの?〉


〈何、今時扇風機なんて使ってんの。
それってヤバくない?
軽く、ヤバクない?
なに気に、ヤバくない?〉


〈扇風…がはっ。
いだだだだだだ。
何すんのォォォ!!
まだ、何もしゃべってないのに!!〉


って感じで、たらい回しにされた。


「あー、腹立つ!イライラする!
あの青い空まで腹立つ!
あんなに青いのに!

なんで、扇風機如き買うのに。
こんな汗だくで、たらい回しにならなきゃならねーんだ。」


『…もうこの際、扇風機でもエアコンでも、何でもいいっすよ。』


銀時は隣に止まってた車の運転手に叫ぶ。


「オイ、おっさん。
帰っていいかな?
俺もう、帰っていいかな?」


「え…いや。
帰っていいんじゃねーのか。」


「いいわけねーだろ!
家はもう、蒸し風呂状態なんだよ!
何も知らねーくせに、知ったような口をきくな!!」


『あぁ〜!扇風機ぃ〜!!』


「くそっ、やっぱおかしい。
おかしいぞ、これは。

扇風機買いにきてんだよ。
涼しくなるためにきてんだよ、俺は。
なのに、暑くなる一方じゃねーか。
イライラする一方じゃねーか。
汗だくじゃねーか。
あー、腹立つホント。
エアコンにしときゃよかった!!
あ、でも金ねーんだ。」


原チャは再び、走りだした。
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