空色スパイラル2

□第五十六訓 冬に食べるアイスも なかなかオツなもんだ
1ページ/2ページ



万事屋一行は、依頼で大きな屋敷に来ていた。


「オイオイオイ。
なんだ、コリャ。」


『なにって…なに?』


「コレ、どう見ても【かたつむり】じゃねーか。
何?いやがらせ?」


「コレ、アレですよ。
【えすかるご】だか、なんだかいう、高級料理っスよ。多分。」


「マジでか。」


「ちょっと、ちょっと。
コレ、今回の仕事は期待できるんじゃないスか。
いきなりのもてなしが、コレだもん。」


銀時は愛達に小声で言う。


「バカヤロー、舞いあがってんな。
こんなモン食ったら、大恥かくぞ。
見ろ、お手伝いさん半笑いだろ?」


「ホントネ。
え?でも。そしたら、このでんでん虫、何に使うアルカ?」


「皿だよ、オメー。
これに食い物、乗せて食うんだよ、きっと。」


「皿って…皿の上に乗ってるじゃないスか、既に。」


「コーヒーカップだって、皿の上に乗ってんだろーが。
なんか、そんなんがオシャレなんだよ。」


『あれは、ティースプーンとか、ミルクのゴミとか置くためにあるんすよ…。』


「マジか、知らなかったぜ。」


「お前ら、ホントッ田舎モノな。
私の見とくネ。」


神楽はエスカルゴを持つと、お手伝いさんに投げつける。


「すいませーん、水おかわりィィ!!」


「あー、なるほど。
お手伝いさん呼ぶ時に使うんだ。
だから、円盤状なんだ。

お手伝いさん、俺は箸もってきて。」


お手伝いさんを殴り続ける銀時と神楽に、新八は呟く。


「コレ、ちょっと違うんじゃないですか?」


「あってるって、半笑いやめたじゃん。
…アレ?泣いてる?」


『さっ…三人とも…。』


愛は、いつの間にか自分たちの向かい側に座っている、男を指差す。


「誰だアレ、オイ。
え?かたつむりの妖精?」


「頭の上に乗せてるヨ、でんでん虫。」


「え?あーゆーカンジでいいの?」


『帽子だったんすね…。』


すると、依頼主が入ってくる。


「万事屋さ〜ん。
すいませ〜ん、遅れて。
ちょっと母の体調が悪くて。

何やってんですかァァ、アンタらァァァ。」


依頼主が叫んだ先には、おじいさんに習って、エスカルゴを頭に乗せる銀時達とお手伝いさんがいた。

一段落ついて、依頼主はおじいさんの座っていた席に座る。


「スイマッセン。
僕ら、こういうのあまり慣れてないもので。」


「アッハッハッ。
いや、いいんですよ。
それより、さっそく父と仲良くなったようで、安心しましたよ。」


「え?父?」


「ええ。
実はそれ、僕の父でして。

今回、あなた達を呼んだのは、父の世話をしてもらおうと思ってのことなんです。」


おじいさんは銀時の料理に手を出す。


「てめっ!エスカルゴジジイ。
それは俺の…。」


「誰がピタゴラスの定理じゃああああ!!」


銀時の頭にフォークが刺さる。


「ギャアアアアア。」


『銀時、大丈夫っすか?
ホラ、私のあげるから!』


依頼主の額に汗が流れる。


「すいません。
あの、ウチの父。
ちょっと痴呆の方が進んでおりまして。

一代で角屋を、ここまで大きくして。
江戸一番の花火師、と言われていた程の人だったんですが。
倒れた母の面倒を見るといって引退して以来、様子がおかしくなって。
夜中に徘徊したり、外に出たきり二三日、戻ってこなかったり。
手に負えなくなってきまして…。」






銀時と愛、新八は縁側に座り、おじいさんと神楽が犬と戯れているのを見ている。


「…気が合うみたいですね。」


「話は噛み合ってないけどな。」


『犬小屋には【太郎】って書いてるんすけどね。』


銀時は鼻をほじる。


「にしても、男ってのはモロいね。

女は旦那が死んでも、けっこう元気にやってくもんなのよ、意外と。
でも。男ときたら、嫁さんに先立たれると、みるみる弱っていっちまうもんなァ。悲しいかな。
愛は先に死んでくれるなよ。」


「いや、まだ奥さん死んでませんよ。

三年前に倒れてから、もうずっと寝たきりなんですって。
その面倒見るって花火やめたってのに、そのせいでボケちゃうなんて。
…やっぱり花火、好きだったんだ。

そう思うと。なんか、おじいちゃんもかわいそ…。」


『あっ、おじいちゃんが…。』


愛の指差す先には、木に登ってるおじいさんがいた。


「クソジジイぃぃぃぃ、何やってんだァァァ!!」


「愛人に会いにいくんだって。」


「いるかァァァァ、んなもん!!
また、屋敷ぬけだして、フラフラするつもりだよ。
降りてこいィィ!!」


「キャホゥゥゥ。」


「どけ。」


銀時は一歩前に出る。
そして、そのまま木を一刀両断した。


「え゙え゙え゙え゙え゙!!」


『さっすがー!』


木は池の中に倒れる。


「油断もスキも、ありゃしねーな。」


「ねーねー、やりすぎじゃないですか。
世話ですよ、世話。
抹殺じゃないですよ、抹殺じゃ。」


『ちょっ、銀時。老人にアレは、かわいそ…。』


「あっ!!
まだ、諦めてませんよ!!」


おじいさんは屋敷の中を逃げ回る。


「キャホゥゥゥ!!」


「んだ、この元気!?
ホントに老人か!!
愛!いけっ!!」


『りょーかい!』


愛は一気にスピードを上げ、おじいさんに近づく。


「キャホゥゥゥ!!」


おじいさんが叫んだ瞬間、あと一歩だった愛がしゃがんだ。
愛の上からエスカルゴが飛んでくる。


「わたァァァァ!!」


「ほァァちゃァ!」


銀時と神楽は木刀と傘で打ち返し、新八は避ける。


「ちょっとォォォ、家メチャクチャになってますよ!」


銀時は木刀を投げる。


「ぬおおおおお!!」


おじいさんは部屋の一つに倒れ込む。


『捕まえたぁ!』


「「わたァァァ!」」


愛はおじいさんを押さえ、木刀を首筋に当てる。
銀時と神楽も襖を蹴破る。

『さぁ。諦めて、お縄についてくだ…。』


三人は硬直する。
なぜなら、そこはおじいさんの奥さんの寝てる部屋だったのだ。


すぐさま、襖を直し。
万事屋一行とおじいさんは土下座をする。


「父さん、いい加減にしてくれよ!
母さんが、こんな時に!
やっていい事と、悪い事があるよ!」


新八が申し訳なさそうに言う。


「すいません、僕らも悪ノリが過ぎました。」


「まァまァ、気にすんなよ。
一生懸命やったよ、お前ら。」


「お前が言うなや、クソジジイ。」


息子さんは静かに言う。


「それから父さん。
母さん、入院することが決まったから。
病状が悪化して、もうウチじゃ、どうにもならなくなってきたから。」


おじいさんは静かに話を聞く。


「それじゃ、おじいさんとおばあさん離れ離れに…。」


おじいさんは障子の前に移動する。


「父さん、なんか言いたいこと、ないのかい?」


「愛人に会ってくる。」


おじいさんは障子を開けて、出ていってしまった。


「…………なんてこった。
母さんのことまで忘れてしまったのか。」


「ちょっくら失礼します。」


銀時と愛は立ち上がり、おじいさんを追おうとする。


「ほっといてあげて。」


その声はおばあさんのものだった。


「あの人を、あんな風にしてしまったのは、私だから。
あの人から花火をうばったのは、私だから。
もう、自由にしてあげて。

あの人は充分、私に尽くしてくれた。
大好きな花火の仕事をやめて。
一生懸命、私の世話をしてくれて…。
でも、やりたいことを我慢して、辛そうにしてるあの人は、もう見たくないの。」


おばあさんは静かに目を閉じ、一緒に見た花火を思い出す。


「私のことは忘れてくれて、構わないの。
最初から、あの人の頭の中は、花火でいっぱいで。
私の入る余地なんて、なかったんだから。

そういう、あの人に。
私はほれたんだから。」


「…母さん。」


しかし、その時には。
すでに、銀時と愛は部屋にはいなかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ