空色スパイラル2

□第五十三訓 煩悩が鐘で消えるかァァ 己で制御しろ己で
1ページ/1ページ



大晦日、愛は真選組屯所にいた。


『たっのも〜!』


「愛じゃないですかィ。」


出てきたのは沖田だった。


「どうしたんですかィ?」


『年賀状、送ろうと思ってたんだけど。
真選組の皆さんにだと、量が多いから。
とりあえず、挨拶回りに。』


「わざわざ、ありがとうございまさァ。」


『近藤さん達は?』


すると、沖田の表情が苦くなる。


『どうしたんすか?』


「あの人達は、今ちょっと入り用でな。」


そう言ったのは、屯所から出てきた土方だった。


「伝言なら、伝えとくぞ。」


『あっ、うん。
去年は大変、お世話になりました。
今年もよろしくお願いしますって伝えておいて。』


「オウ。」


『じゃあ、二人とも。
よいお年を!』


愛は去って行った。






『小太郎!』


桂とエリザベスは年越し蕎麦を食べていた。


「愛、どうしたのだ?」


『小太郎。
住所不定だから、年賀状送れなくて…。』


「それで、わざわざ探しに来てくれたのか。」


愛は改めて言う。


『去年は色々ありがとう。
今年もよろしくね!』


「うむ。こちらこそ、よろしくな。」


『じゃあ、私は初詣に行かなきゃいけないから…。』


桂は愛の腕を、反射的に掴む。


『どうしたんすか?』


「愛。
何かあったら、俺や銀時を頼るんだぞ。
お前は、何でも抱え込み過ぎるからな。」


『ありがと!』


愛は駆けて行った。






愛が鳥居の前で待っていると、神楽とお妙、定春に新八の三人と一匹が階段を上がってくる。


「愛、ごめんなさいね。」


『いや、私も今来た所だから。』


「愛、今年の紅白はスゴかったアル!
カトケンが光輝いてたネ!」


『良かったっすね!』


愛達は本殿に向かい、歩を進める。


『銀時は?』


「ジャンプ買いに行ったきり、帰ってこないんですよ。」


『え!?』


「どうかしたんですか?」


『さっき、下のコンビニで買っちゃった…。』


「あー。よく、やっちゃいますよね。」


すると、神楽がお妙に尋ねる。


「姐御。
さっきから、ゴンゴンゴンゴン。
この音は、何アル?
受験生が壁に頭を打ちつけているアルか?」


『そういえば、毎年聞くけど良く分かんないっすよね…。
和尚さんが、うっぷん晴らすために、鐘でも蹴ってるのかな…。』


「違うわよ、神楽ちゃん。愛。
これは、リストラされたサラリーマンが岩を叩いて、拳を鍛える音よ。」


「姉上。何、教えてんですか。」


新八は白い目で言う。


「いいじゃない。
子供に夢を与えるには、ウソも必要なのよ。」


「いや、夢も希望もないですから。
そんな復讐譚。

愛さんが知らないのは意外ですね。」


新八は気を取り直し、愛と神楽に教える。


「愛さん、神楽ちゃん。これはね。
除夜の鐘といってね。
毎年、大晦日の夜には、こうして鐘を百八回、打ち鳴らすんだよ。」


「百八回も?
受験生に対する嫌がらせアルか。」


「百八というのは、人間の煩悩の数。
つまり、欲望の数とされていてね。

鐘を鳴らすことによって、その煩悩を一つずつ打ち消して。
まっさらなキレイな心で、新年を迎えましょうって。
そういうことなのさ。」


お妙は笑顔で言う。


「神楽ちゃんも愛も。
心がキレイだから、必要ないわよね。
でもね、人間。
愛のような人は別だけど、大人になると。
どんどん、そういう汚いものに、心が捉われやすくなってしまうものなの。

愛を見習って、神楽ちゃんも新ちゃんも、そんな汚い大人になっちゃダメよ。
煩悩にとらわれた人間に待つのは、滅びのみよ。」






その後、本殿でお詣りを終えて、志村家に帰った。


『銀時、遅いなぁ。』


すると、愛の部屋の障子が開く。


「愛。」


『あっ、銀時!どうしたんすか!?』


銀時はボロボロだった。


「いや…ちょっとな。」


銀時は愛の持っている、ジャンプに目を移す。


『ん?』


「あっ…あった。」


銀時はジャンプを借りようと、足を踏み出した。
しかし、銀時は踏み出した瞬間に倒けてしまう。


「!!」


『きゃっ!』


端から見ると、銀時が押し倒してるように見える状態で。
銀時も愛も、あまりの近さに顔が赤くなる。


「あっ…わりっ…。」


銀時が退こうとした時、タイミング悪く襖が開く。


「愛、お風呂沸いた…。」


「………。」


『…………。』


お妙は笑顔を浮かべるが、目が笑っていない。


「銀さん、何してるんですか?」


「い…いや、これは事故で…。」


「言い訳無用!!」


『あ、確かに煩悩(ジャンプに対する)は、身を滅ぼすっすね…。』


第五十三訓 煩悩が鐘で消えるかァァ 己で制御しろ己で
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ