空色スパイラル2

□第四十訓 結婚とは勘違いを一生涯し続けることだ
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ちょんまげローン。
そこでは悪どいやり取りが行われていた。



「ぬっふっふっふっ。
越後屋、おぬしもワルよの〜。
近江屋も、あの世でおぬしを恨んでいよう。」



「おたわむれを…。
あ奴めを殺す算段を整えたのは、アナタ様の方ではありませぬか。」



「アレェ〜、そうだったっけ?」



「また、コレ。とぼけちゃって。」



そこに、どこぞかの時代劇のテーマが流れる。



「なんだ?誰かいるのか。」



越後屋が障子の外を見ようとした時、いきなり障子越しに首を絞められる。

障子が倒れ、中に首を絞めていた張本人が入ってくる。



「なっ…何奴だァ!!」



「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、外道畜生、必殺の理をあらわす。

こんばんは、始末屋さっちゃん見参。」



現れたのは薄い紫の長髪をした、くの一だった。



「闇商人、根津三屋。
か弱き民衆を食い物にし、己の私腹を肥やすこと、万死に値する。

この始末屋さっちゃんが、成敗してくれよう。」



「オイッ!オイッ!こっちだぞ。」



さっちゃんが睨んでいたのは、床の間に飾ってあった置物だった。

今度は鏡に向かって構える。



「さァ、覚悟しなさい。根津三屋!」



「何しに来たの、お前!」



「あの、スミマセン。
さっきのアレで眼鏡、落としちゃって。
ちょっと、一緒に探してくれませんか?」



さっちゃんに眼鏡が手渡される。



「ホラ。」



「あ、スミマセン。
あー、見えてきた。見えてきた。

…見えなきゃよかった。」



さっちゃんの周りには男が10人ほど、取り囲んでいた。



「曲者ォォ。」



斬りかかられたと同時にさっちゃんは屋敷を後にする。



「あっ!逃げたぞォ!!」



「追えェェ!」



さっちゃんは屋根から屋根に飛び移る。



「……しくじったか。
仕方なあ、出直す…。」



言い終わる前に、さっちゃんはどこかの家の中に落ちた。








朝の万事屋。



「おはよーございます。」



新八は居間の扉を開ける。



「アレ?定春、みんなは?

ハァー、ほんとにグータラな連中だな。」



まず、愛の部屋をノックする。



「愛さん、起きてますか。」



『ん?っあー、寝過ごしてた!!
ごめん、新八。ありがとう!』



次に、神楽の押し入れを開ける。



「ハーイ、起きてェ〜。朝だよ〜。」



そして最後に、いつも通りに銀時の寝室の襖を開ける。



「銀さ〜ん、結野アナのお天気注意報。
始まっちゃいますよ。」



新八は一瞬、汚らわしいものを見るような目をすると、襖を閉めた。



『あれ、銀時は?』



「何やってるか、新八。」



「来るなァァァ!!」



神楽は興味津々で、部屋の前に来る。
愛も後ろから近づいて来た。



「銀ちゃんに、何かあったアルか?
ストパーか!ストパーになってたアルか!!」



『えっ、ストパー!
見たい、見た〜い!』



「止めろォォ!!
あっちには、うす汚れた世界しか、ひろがってねーぞ!

特に、愛さんはダメです。」



『なんで私だけなんすか?』



しかし、新八の奮闘虚しく、神楽が襖を開けてしまった。


そこに広がっていたのは、銀時の上に、女が覆い被さっている光景だった。








女こと、さっちゃんは愛を膝の上に座らせながら、納豆を練り続けている。



「………で、誰この人。」



「アンタが連れこんだんでしょーが。」



さっちゃんは愛のお茶碗に納豆を乗せる。



『ありがとう。』



「いえいえ。」



銀時は目を点にしながら言う。



「…昨日は……あ、ダメだ。
飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ。」



「忍者のコスプレまでして、とぼけないでくださいよ。
くの一か?くの一プレーか?」



「イイ加減にしろよ。
んな事するワケねーだろ!
どっちかっていうと、ナースの方がイイ。」



「新八、男は若いうちに遊んでた方がいいのヨ。
じゃないと、イイ年こいてから若い女に騙されたり。
変な遊びにハマったりするって、マミーが言ってたよ。」



「お前のマミーも苦労したんだな。」



銀時は愛の方を向く。



「愛は信じてくれるよな。」



『おめでとう、二人とも。
お祝儀っていくらかなぁ。』



「………。」



銀時はさっちゃんに尋ねる。



「…あの〜。
俺、何も覚えてないんスけど、何か変な事しました?」



「いえ、何も。」



銀時はホッとする。



「そーか、そーか。よかった。
俺ァ、てっきり酒の勢いで、何か間違いを起こしたのかと。」



「夫婦の間に間違いなんてないわ。
どんなマニアックな要望にも、私は応えるわ。

さっ、アナタ。
納豆がホラッ、こんなにネバネバに練れましたよ。
はい、アーン。」



「いだだだだだ。
そこ、口じゃないから。そこ、口じゃないよ。
目は口程にものを言うけど、口じゃないよ。

え?何?夫婦って。」



「責任とってくれるんでしょ。
あんなことしたんだから。」



「あんなことって何だよ!
何もしてねーよ、俺は!」



「何、言ってるの。
この納豆のように、絡み合った仲じゃない。
いだだだだだ。」



「だからそこ、口じゃねーって、言ってんだろ!」



新八と神楽は冷めた目で言う。



「銀さん、やっちゃったもんは仕方ないよ。
認知しよう。」



「結婚はホレるより、なれアルヨ。
安心するアル、愛は幸せにするヨ。」



「オメーラまで、何言ってんの!
みんなの銀サンが、納豆女にとられちゃうよ!」



「大丈夫よ、アナタ。
愛は養子にしましょう。
もう、可愛いすぎるわ。」


さっちゃんは愛に抱きつく。



「冗談じゃねーよ。
俺が何も覚えてねーのをイイことに、騙そうとしてんだろ?な?

大体、僕らお互いの名前もしらないのにさ、結婚だなんて…。」



「とぼけた顔して…身体は知ってるくせにさァ。」



「イヤなこと言うんじゃねーよ。
それから、ソレ。
銀サンじゃねーぞ!」



さっちゃんは定春を撫でていた手を止める。



「あー、やっぱり眼鏡がないとダメだわ。」



さっちゃんの携帯が鳴る。
すると、さっちゃんは包丁を取り出し、耳に当てた。



「ハイ、もしもし。」



「もしもーし。大丈夫ですか、頭?」



『携帯、こっちだよ。』



「愛、ありがとう。」



さっちゃんは今度こそ携帯を耳に当てた。



「もしもし、さっちゃんですけど。」



〈―やァ、始末屋さん。〉


「…アナタは。」



〈ゆうべは、どうも…。
声が聞けて、うれしいよ。

美しい始末屋さんに、どうやら私は恋をしてしまったようでね。
屋敷に忍び込んでた君の友達から、携帯電話をゲッツしちゃったよ。
ぜひ、また会いたいんだが…来てくれるよね?
星は変わっても、友人の大切さに変わりはないからね。〉



電話を切ると、袴を着た銀時が話しかける。



「オイ…腹くくったよ、俺も男だ。
記憶にねーとはいえ、あんなことと、こんなことしといて、知らんぷりもできねー。

こんな俺でよかったら、もらって下さい。」



さっちゃんは振り向くと、愛を片手で抱き、銀時の手を握った。



「…そう、じゃあ一緒に来て。」



「式場ですか?
俺、あんまり金ないんですけど。」



『いや、新居かもよ?
ってか、私が居たら邪魔なんじゃ…。』



新八は急いで投げる。



「さっちゃんさん!待って待って。
コレ、眼鏡ありましたよ!」



玄関から凄い音がする。



「いだだだ、ちょっと待っ…。」



『大丈夫?』



新八は汗を流す。



「………僕も女には気をつけよう。」



「新八ィィ!」



「………どうしたの?」



「アレ。」



神楽は銀時の部屋の天井を指差す。



「この穴、いつからあいてたの?」



「さっちゃん…空から落ちてきた天女かも。」
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