空色スパイラル2

□煉獄関編
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「まぁまぁ、遠慮せずに食べなさいよ。」



「…何コレ?」



「旦那、愛、すまねェ。
全部バレちゃいやした。」



ファミレスにて、銀時と愛は土方と沖田と向かい合っている。
そして、その前にはカツ丼にマヨネーズのかかった、恐ろしい物体が鎮座している。



「イヤイヤ、そうじゃなくて。
何コレ?マヨネーズに恨みでもあんの?」



『み…見ただけで吐き気が…。』



「【カツ丼土方スペシャル】だ。」



「こんなスペシャル、誰も必要としてねーんだよ。
オイ、姉ちゃん。
チョコレートパフェ一つ!」



『あっ、私もチョコパとガトーショコラ。』



「お前らは一生、糖分とってろ。
どうだ、総悟。ウメーだろ?」



「スゲーや、土方さん。
カツ丼を犬のエサに昇華できるとは。」



土方は煙草をくゆらす。



「…何だ、コレ?
おごってやったのに、この敗北感…。

…まぁいい、本筋の話をしよう。
…テメーら。
総悟に、いろいろ吹きこまれたそうだが。
アレ、全部忘れてくれ。」


「んだ、オイ。都合のいい話だな。
その感じじゃテメーも、あそこで何が行われてるのか、知ってんじゃねーの?
大層な役人さんだよ。
目の前で犯罪が起きてるってのに、しらんぷりたァ。」



『だから、犬公は嫌いなんすよ。』



「いずれは真選組[ウチ]が潰すさ。
だが、まだ早ェ。
腐った実は時が経てば、自ら地に落ちるもんだ。

…てゆーか、オメー。
【土方スペシャル】に鼻クソ入れたろ。
謝れコノヤロー。」



土方は【土方スペシャル】を食べる。



「大体、テメーら小物が数人はむかったところで、どうこうなる連中じゃねェ。
下手すりゃ、ウチも潰されかねねーんだよ。」



「土方さん。
アンタ。ひょっとして、もう全部つかんで…。」



「…近藤さんには言うなよ。
あの人に知れたら、なりふり構わず無茶しかねねェ。

天導衆って奴ら、知ってるか?
将軍を傀儡にし、この国をテメー勝手に作り変えてる。
あの趣味の悪い闘技場は…。
その天導衆の遊び場なんだよ。」








神楽と新八が帰ってきたのは、次の日だった。
外の雨より悲しい知らせを持ち帰ってきた二人は、膝を抱えている。



「あ〜、嫌な雨だ。
何も、こんな日にそんな湿っぽい話、持ち込んでこなくてもいいじゃねーか…。」



『道信さん…。』



「そいつァ、すまねェ。
一応知らせとかねーとと、思いましてね。」



神楽と新八がポツリと言う。



「ゴメン、銀ちゃん。」



「僕らが最後まで見とどけていれば…。」



「オメーらのせいじゃねーよ。
野郎も人斬りだ。
自分でもロクな死に方できねーのくらい、覚悟してたさ。」



沖田は立ち上がる。



「ガキどもはウチらの手で、引きとり先探しまさァ。
情けねェ話ですが、俺たちにはそれぐらいしか、できねーんでね。

旦那ァ、愛。
妙なモンに巻き込んじまって、すいませんでした。
この話は、これっきりにしやしょーや。
これ以上関わっても、ロクなことなさそーですし。」



すると、戸が開く音がする。
立っていたのは、道信が残した子供達だった。



「!
テメーら、ココには来るなって言ったろィ?」



「…に、兄ちゃんと姉ちゃん。」



「兄ちゃん達に頼めば、何でもしてくれるんだよね。
何でもしてくれる、万事屋なんだよね?」



「お願い!先生の敵、討ってよォ!」



子供達は涙を流す。
一人ずつ、おもちゃを机の上に置く。



「コレ…僕の宝物なんだ。」



「お金はないけど。
…みんなの宝物、あげるから。
だから、お願い。お兄ちゃん、お姉ちゃん。」



沖田は冷たく言い放つ。



「いい加減にしろ。
お前ら、もう帰りな。」



「…僕知ってるよ。
先生…。僕たちの知らないところで、悪いことやってたんだろ?
だから、死んじゃったんだよね。
でもね、僕たちにとっては大好きな父ちゃん…。
立派な父ちゃんだったんだよ…。」



銀時は自分の目の前まで来た子供に聞く。



「オイ、ガキ!
コレ、今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」



「そーだよ、レアモノだよ。
何で、兄ちゃん知ってるの?」



「何でって、オメー。
俺も集めてんだ…。
ドッキリマンシール。

コイツのためなら、何でもやるぜ。
後で返せっつっても、おせーからな。」



「兄ちゃん!」



愛以外は目を丸くする。



「ちょっ…旦那。」



「銀ちゃん、本気アルか。」



『銀時だけじゃないっすよ!』



愛も後に続く。



『私からは、ずっとお父さんの事、胸を張って誇っていくのが条件っす!!

それに、私達は敵討ちに行くんじゃない。
道信さんとの約束を護りに行くんだ。』



顔を上げると、戸の横に土方がもたれている。



「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな。
小物が二人、はむかったところで、潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…。

死ぬぜ。」



「オイオイ、何だ。
どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。」



『警察が不法侵入って、どーよ!』



「テメーらにゃ、迷惑かけねーよ。どけ。」



「別にテメーらが死のうが構わんが。
ただ、げせねー。
わざわざ死にに行くってのか?」



「行かなくても、俺ァ死ぬんだよ。
俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。
そいつァ見えねーが。
確かに俺の、どタマから股間をまっすぐブチ抜いて、俺の中に存在する。
そいつがあるから、俺ァまっすぐ立っていられる。
フラフラしても、まっすぐ歩いていける。

ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。
魂が折れちまうんだよ。」



銀時は土方とすれ違い、そのまま進んでいく。



「心臓が止まるなんてことより。
俺にしたら、そっちの方が一大事でね。

こいつァ。老いぼれて、腰が曲がっても、まっすぐじゃなきゃいけねー。」



『私も、魂だけは腐らせたくないんすよ。
体が腐ろうが、周りが腐ろうが、自分の魂だけは腐らせないのがモットーっすから。
だから、死ぬ死なない以前の問題なの。』



万事屋を出た愛の耳に、神楽と新八の足音も聞こえた気がする。
愛は嬉しそうに微笑むと、前の銀時の背を追いかけた。



第四十三訓 男はみんなロマンティスト
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