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□鬼火
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《暗。》
シトシト…
雨が降りつづける。
誰も歩いていない町外れの通り。
暗い闇の中にほのかに灯された街灯。
私はその中を傘もささずに走った。
走って走って…
やっとたどりついた...病院。
中に入ると廊下の奥に見える手術室。
手術中なのを表すランプは赤く、薄暗い病院の奥の廊下で不気味に光っていた。
私はあせる気持ちを抑えながら、手術室の前にある長椅子の隅に座る。
数分後、ランプが消えた。
私は、手術室の扉が開くと共に席を立つ。
まず最初に、手術をさっきまでしていたのであろう医師が出てきた。
私はその人の目の前に立ち、結果をいち早く聞きたいという思いから、早口で言葉を発した。
しかし…
医師は何も言わず、ただ俯いた。
そして軽く首を振った。
予想はしていた。
もう、助からないのだということを。
私は手術室を見た。
中からゆっくりと手術台に乗った彼女が出てきた。
彼女の心臓は既に止まっていた。
しかし私の目から涙は流れることは無かった。
私はしばらくの間、もう生きてはいない彼女とともに時間を過ごした。
まだ生きているようにしか思えない安らかな感じで、彼女は眠っていた。
そろそろ時間です。
そう声をかけられ、私は彼女に別れを告げた。
「 」
数日後…
山奥の崖で一人の男の死体が発見された。
所々が悲惨な状態になっていた彼は、
何故かとてつもなく、幸せそうな笑顔で死んで行った。
そう、
それなのに生きている。
ワタシハ生キテル…?
何故なのだ?
私は彼女に言ったのに、
「もうすぐで行くよ」と。
なのに…
彼女の元へ行けない。
死んだハズなのに死ねていない。
会いたい…
逢いたいあいたいアイタイ
誰か…私ヲ殺シテ?
(終)