wisp

□鬼火
1ページ/3ページ

《暗。》



シトシト…

雨が降りつづける。
誰も歩いていない町外れの通り。
暗い闇の中にほのかに灯された街灯。
私はその中を傘もささずに走った。

走って走って…

やっとたどりついた...病院。

中に入ると廊下の奥に見える手術室。
手術中なのを表すランプは赤く、薄暗い病院の奥の廊下で不気味に光っていた。

私はあせる気持ちを抑えながら、手術室の前にある長椅子の隅に座る。

数分後、ランプが消えた。
私は、手術室の扉が開くと共に席を立つ。

まず最初に、手術をさっきまでしていたのであろう医師が出てきた。
私はその人の目の前に立ち、結果をいち早く聞きたいという思いから、早口で言葉を発した。

しかし…

医師は何も言わず、ただ俯いた。
そして軽く首を振った。

予想はしていた。
もう、助からないのだということを。
私は手術室を見た。
中からゆっくりと手術台に乗った彼女が出てきた。

彼女の心臓は既に止まっていた。
しかし私の目から涙は流れることは無かった。

私はしばらくの間、もう生きてはいない彼女とともに時間を過ごした。
まだ生きているようにしか思えない安らかな感じで、彼女は眠っていた。

 そろそろ時間です。

そう声をかけられ、私は彼女に別れを告げた。
  「        」

数日後…

山奥の崖で一人の男の死体が発見された。

所々が悲惨な状態になっていた彼は、
何故かとてつもなく、幸せそうな笑顔で死んで行った。

そう、
それなのに生きている。

ワタシハ生キテル…?

何故なのだ?
私は彼女に言ったのに、
  「もうすぐで行くよ」と。
なのに…
彼女の元へ行けない。
死んだハズなのに死ねていない。
会いたい…
逢いたいあいたいアイタイ

誰か…私ヲ殺シテ?





(終)
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ