29小説

□〈光へ手を伸ばすことについての〉
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三、光。

殺し尽くされ、
焼き尽くされ、
奪い尽くされた、我らの父母達。
叫び震え泥にまみれた彼らの恨みが聞こえぬわたしではないけれど。
(負ける訳にはいかぬ相手に負けた咎)

だのにお前は過去の死はおろか
半身死んだわたしとわたしが殺めた超人の二人分の死までひょいと背負って
それでいてなお
(それだからこそ)
あぁ、倒れるな。

誇りたかった、あの人を。
(あの人に勝ったのはわたしの誇りだ)
誇りたかった、自分を。
(わたしはお前と全力で戦って負けた)


叶ってわたしは引き返す。
(この現金さ薄情さわたしはまだまだ浅ましくなれる)
喉を熱くし胸に詰まるこの実感、

わたしは生きている。
(この身に当たる吹く風は今の今まで何に遮られていた?)

わたしは、生きていこう。
(追うのはこの際、お前でいい)
あの人の残照に半ば盲いたこの目にさえ
細く映った王の光。
(こじ開けるのは、わたしでありたい)


(お前の出自がかの国ではなくそらの果ての王家だと知って安堵するわたしは脚の鎖を解く理由を考えていた)


未熟な王者よ、わたしがお前にしてやれるのは
戦うことしかないのだと、
よくもお前は知っていたな!



わたしはきっともう一度、
お前に挑み戦おう。

 そしてお前の横に立ち、
 お前と共に戦おう。

  やがてお前の前に降り、
  お前の為に戦おう。

   いつかお前の後ろに控え、
   全権をお前に委ねよう。


お前の振るう正義の刃となる為に、全ての罪を償おう。

あがないにどれだけの血を流そうと、悠久の時を越えようと、
(わたしがわたしでなくなっても)
なおもわたしは生きるだろう。


お前の声を聞く度に、
沼の底から
燠の中から
骨の屑から

立ち上がりみまえに馳せ参じる権利を
とわに、今ここに


この黒き手に握らせめ。




〈光へ手を伸ばすことについての〉

Fin.
20110310

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