音 楽
□偽言
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「好きです」
「大好きです」
そう言ってのけるのは背後に立つ阿呆で。
普段ならなんだかんだ嬉しい言葉でも、この日ばかりは違う。
今日は4月1日。エイプリルフール。
嘘ついてもいい日。
さっき散々嫌いだ大嫌いだと言ってきたかと思ったら、次は好き・・・。
一体こいつは何を考えているんだと呆れつつ、それすら嘘ならじゃあお前にとって俺は何なんだと訳の分からん思考に到達し、ぐるぐる一人で考えていると
「でも」
そう続けてきた。
続きは気になる。でも、拒絶されるのだけは嫌だ。
顔が見えない、声しか聞こえない今の状態じゃ、その言葉の真偽を確かめるなんてほぼ不可能な訳で。
このまま立ち去る事も出来ず突っ立ってると、背後から声が。
「 」
耳を疑う。
何をこんなに緊張してるんだと自分の中の冷静な部分に罵られながらも、しばらく動けずにいた。
しばらくしてまともに頭が働くようになると、ふと気が付いた。
顔を上げた先にある時計を見る。
後少し。
時間が来たと同時に、望んでいるであろう答えを出してやった。
「大好きだよ」
果たしてあの馬鹿がこの行事のルールを知っているかは定かではないが。
とにかく今は、速い鼓動と赤い顔を何とかするべく、足早に部屋に向かうしか出来なかった。
end.