音 楽

□晴れない曇、溶けない雪
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ちらり、ちらり、雪が散る。


冷気が入ってくる事も厭わず、窓を開けて外を眺める。
綿のように軽くてふわふわした雪が、灰色の空から時に風に流されながら降りてくる。

地面は多分薄っすら白くなっていたり、溶けた雪で色が濃くなっている部分があるんだろうな。
そう思っても、下は見ない。
ただぼうっと、遠く遠くの空を見る。

思わず吐いた溜め息が白く凍るのが見えた。
一体どれだけ寒いのか、なんて知る由も無い。
シャツの上に羽織った袢纏の前を合わせる。
裸足の足が冷え、もうほとんど感覚が無い。
ズボンの裾から空気が入り込み、段々と足全体が凍っていくような気がした。

それでも、窓を閉められない。
空を映す目までも凍ってしまいそうに寒いのに、瞬きも程々にただ何かを見続ける。

この曇天模様を目に焼き付けておきたかった。
空から舞い落ちる白に赤が加わる前に。

一体どれほどの時間が経ったのだろう。

いつの間にか、後ろに人が立っていた。


「ただいま」


その言葉と共に後ろから、そっと腰に腕が回される。
服ごしにゆっくりと伝わる温もり。

ああ。駄目だ。
明日になったら、この温もりを手放すことになるかもしれない。
そう考えると、不安で不安で。

無意識のうちに回された腕の先、手のひらをぎゅっと握っていた。

火傷しそうに熱いその感覚が、痛くて、それが心地よくて。

ずっと今日ならいいのに。
そうぼんやりと思ったのが最後。

ゆっくりと意識が暗転していった。





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