音 楽

□Sweet aika
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お昼過ぎのぽかぽかと暖かい時間。
愛しい人と穏やかな時間を過ごしていたら、誰か帰って来た。
その人はこの光景を見るやいなや眉間に皺を寄せ渋い顔をして私の顔を見る。

「今日は何したんですか?」

・・・失礼な。

「何もしてませんよ」

本当に今日はまだ何もしていない。

「嘘おっしゃい!何もしてなかったらフラスコがそんなにおとなしく膝枕を受

けるわけがないでしょう!」

随分と酷い言われ様。
別に私そこまで卑劣な人間ではないと思うんですが・・・。
「この人が寝不足なだけですよ。私が来た時はもう寝かけてましたもの」

そう。愛を深めようと思って来たのは良いものの、この人はほとんど寝ていた

のだ。
隣に座ったら自然と私の膝を枕にしてきただけで、私からどうこうという事は

一切ない。

そう言うと彼は複雑な表情のまま私の目の前のソファに座り黙ってしまった。

まだ何か言いたげだ。

話し相手もいなくなり、暇で暇で仕方がなくなったので、ためしに膝の上にあ

る頭を撫でてみた。くすぐったそうに身じろぐ彼が可愛らしくてたまらない。

「そのにやけ面、やめて下さい」

・・・そんなに締まりのない顔をしていたのだろうか・・・。




ふと気付いて下を見ると、くすんだ空色がもぞもぞと動いている。
ああ、そろそろ起きるなと思いながら空色に指を絡めると、のそりと起き上っ

た。
眠そうな目をこする仕草がまるで猫だと思いを巡らせていると、目が覚めた彼

がこちらを凝視してきた。

「は・・・え?いや何お前・・・?」

どうやら混乱しているようだ。
そりゃあ気付いたら人の膝枕で眠っていたなんて、驚きもするだろう。彼にと

ってなら尚更か。

半ばパニックになっている姿を見るのも可愛らしく楽しかったが、このままに

しっぱなしなのも可哀想だ。緑髪の男も、正面に座ったまま何も言わない。
名残惜しみながらも、これまでの経緯をざっと説明する。
すると段々と彼の顔が赤くなっていく。
恥ずかしいのだろう。顔を伏せて黙りこんでしまった。

「お前・・・何もしてないだろうな・・・?」

やっとのことで絞り出したであろう声は震えていた。
素直にはいと頷くといくらか安心したようにそっぽを向いてしまった。
恥ずかしいのか緊張しているのか分からないが、動きがぎこちない気がする。
眼鏡はと訊かれたのでテーブルの上に置いておいたのを手渡す。

こっちを見るなと言われた。
また頬が緩んでいたようだ。けれどそれは仕方がない。彼が可愛いのがいけな

いのだ。




もう少し彼との時間を堪能していたかったが、生憎同居人に言われていた時間

になってしまった。

軽い溜息を吐いて立ち上がると、彼は驚いたようにこちらを見た。
別に私は追い出されなくても帰るんですよ?
そう言おうとしたが止めた。彼も何も言わないし、なによりこれ以上話すと帰

りたくなくなってしまう。

それではと軽い挨拶をして部屋を後にした。



玄関の扉を出て、山を降りる道を歩いていると、向かいから彼の同居人2人が

歩いてきた。
軽く会釈をしてすれ違うと、後ろから走る足音。
まったく、皆さん心配しすぎですよ。今日は本当に何もしていないというのに






さて、次はいつ来よう。
その時は風呂場で水を溜めて気絶寸前まで水責めでもしようか。

そんな考えを巡らせながら、山を降りていった。















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