音 楽

□Un stato severo
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・・・あれ?
・・・可笑しくない?
だって私は、
 いつも通り買い物後の帰路を歩いていた筈なのに・・・

 何でこんな場所で腕を縛り上げられているんだろうか・・・。












何故か私は、だだっ広い部屋のフローリングの上、ジャケットと靴を脱がされ、腕を頭上に縛り上げられた状態で床に放置されていた。
眼帯を外されていないのがせめてもの救いだ。
・・・服が肌蹴ている事には、多少の怒りを感じるが。

「あのー・・・」

現状が理解できない私は、とりあえず少し離れた椅子に座っていた男性に声をかけてみた。


「あァ、目ェが覚めたかなァ?」

何だか間の抜けた、独特な喋り方をする青年は、目にかかるほど長い前髪で、ずいぶんと傷んだ、茶色がかった後ろ髪を後頭部で一つに結わいている。
気持ち悪いくらい細い身体つきをしているのを見ると、他に仲間がいる事が予想できる。
彼一人で、私を運ぶことは不可能だろうから。
そうなると・・・、めんどくさい事になりそうだ。

「あの、此処、何処ですかねえ」

まともな答えが返ってこない事は目に見えているが、何もしないよりましだろうと当たり前の質問をする。

「君が歩いていた通りの外れさァ。それ以外の事はァ、言えないなァ」

楽しそうに男が笑う。
その笑顔に腹が立ってくる。
どうも、こういうタイプの人間は苦手だ・・・。

「では、何故、私をこんな小汚い場所に?」

聞かずとも答えは分かる。念のための確認だ。
すると男は、歯を見せてにぃっと笑う。


「もォちろん!君みたいな美人サンとォ、イケナイお遊びをするためさァ!!」


・・・やっぱりね。
「ンッヒッヒ」と独特な笑い方で凄く楽しそうにしている男に、いらっとした。
知り合いの透明人間の笑い方に似ているのが気に食わない。

それ以前に、この人は私を女性だと思っているらしい。
まあ、好き好んで男性を狙う人種とは思っていなかったが。

あれこれ考えたりしていると、ドアの開く音がした。
音源の方を向くと、短い金髪の男性が一人。
茶髪の男と比べると、しっかりとした身体つきをしているように見える。
この人なら一人ででも私を連れ去る事が可能だろう。


「・・・2人、ですか?」


率直に、疑問を投げかける。
「イケナイお遊び」をするなら、もう2、3人いてもおかしくはない。

「そうだよ、文句ある?」

「あァ!オトナなおねェサンにはァ、2人じゃァ満足できなァいのかな?」

・・・自由になったらとりあえず、茶髪の男をフルボッコにしようと心に決めた。うざすぎる。

「いえいえ。一緒に「お遊び」をする御友人もいないのかなーと、少々疑問に思ったものですから」

ついついストレートな表現になってしまったが、誘拐犯相手に別に繕う必要は無い。
それよりも、この現状をどう打破するかが最優先だ。
霊化が出来ればこんな縄簡単に抜けられるが、どうも結界のようなものが張られているらしく、実体でしかいられない。

「ま、すぐに減らず口も文句も言えないようにしてアゲルよ」

せめて刃物があれば、なんとかなりそうなものを。
生憎、護身用の折りたたみナイフなんて、持ち歩く習慣が無い。

このふざけた事をぬかす男のどちらかでも、刃物を持っていれば・・・。

「ねェねェ、おねェサン?」

疑問を孕んだ表情で問いかけていた茶髪の男に、なんですかと問い返す。

男はにぃっと口角を吊り上げて笑い、言った。

「折角そんなにキレーなオカオしてんだからァ、隠しちゃァもったいないよォ?」

男はズボンのポケットから、手のひらサイズのケースのような物を持っている。
パチンッと音が聞こえるのとほぼ同時に、そのケースから銀に光る何かが現れる。


・・・しめた。


案の定それは折りたたみナイフだった。
それをなんとか奪うことが出来れば、この屈辱的な状態から抜け出せる筈。

ただ、
 それを眼帯を奪われる前に出来るかどうか
が一番の問題だ。

そうこう思案するうちに、茶髪の男の持つナイフの切っ先が、自分の右頬に当たる。

「ごかァいちょォー」

そこからの男の動きは速かった。
何をされているかも分からぬままに、顔の右半分が空気にさらされる。

男達の驚愕の表情が、左目のみならず右目でも鮮明に見て取れる。

そりゃあそうだ。

右目と垂直に、髪の生え際から首との境目くらいにまで、真っ直ぐと、血の様に赤い線があるんだから。

その時、茶髪の男がナイフを取り落とした。


これ幸いと男を蹴飛ばし、多少間接や筋肉が軋むのは気にせず足でナイフを拾い上げる。
そのまま足を振り上げ、腕を吊り上げていた縄を切る。
ナイフを固定し、腕を縛り上げていた縄を断ち切ろうとした。
が、誤って自らの腕を数センチ抉ってしまった。
まあそんな事は気にせず、一気に縄を断ち切る。
衝撃に耐え切れずに、ナイフが折れ、赤い弧を描いて、金髪の男の足元に音を立てて転がった。

腕に残った縄を力任せに引きちぎる。
赤い雫が滴り落ちた。 鉄の臭いが広がる。

漸く腕が自由になり、顔を上げると、さっきまで威勢の良かった2人が怯えている。

さて、と。
どうしたものか。
このまま適当に助けを呼んでも良いけど・・・

それじゃあつまらない・・・よな。

「えぇっと、お二人さん」

声をかけると、身体をはねさせ、怯えた目でこちらを見る男2人。
そりゃあ、腕から流血しているのに痛がるどころか微笑すら浮かべるような奴は、私だって気味が悪い。
だからこそ、満面の笑みで言ってやった。


「ちょっと痛い目、みていただきますね」















無造作に椅子に引っ掛けられていたジャケットから、携帯電話を取り出す。
誰にかけようか悩んだが、とりあえず医者を呼ぶべきだろう。
勿論、私が必要としているわけではない。
私の足元に、力無く横たわっている2人の男の為だ。
流石に、殴る蹴るに加えて引きずり回したり諸々したのはやりすぎた気がする。
まあ、死なない程度にしてやったし、大丈夫か。
正当防衛、正当防衛。


電話の無機質なコール音が響く。
3コール程で繋がった。

『もしもし、どしたの?』

挨拶もそこそこに、とりあえず用件だけ完結に伝えた。

『あー・・・分かった。今から行くよ・・・』

歯切れの悪い返答が返ってくる。
何か気になることでもあるのかと聞いてみたら、


『いや、これから悲惨なことになっているであろう男2人を手当てすると思うと・・・』

 溜め息ひとつ。

・・・そこまで酷くは無いと思うけど・・・。
ちょっと歯が欠けてたり顔半分が擦り剥けてたり泡吹いて失神したりしているくらいだし・・・。

『じゃ、すぐそっち行くから・・・』


返事をして電話を切り、そのまま椅子に座る。
無造作に転がっている男2人を見ると、茶髪の方が呻いた。
意識が戻ったようで、顔を上げ、此方を見る。
途端に喉から引き攣れた様なか細い悲鳴。

そのまま放っておいて騒がれるのも鬱陶しいので、鳩尾に一発蹴りを入れて黙らせた。


はぁ・・・




「早く、先生来ないかなー・・・」














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