音 楽

□鬼は・・・
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節分当日、ほとんど日の落ちたこの時、浅木家のリビングでは何処かで見た事のある薄紫の紙袋を持った國卒がいた。

「極卒!お願いがあるんだけどいいかな?」

「コスプレならしませんよ」

目を爛々と輝かせた己の兄の願いを聞く前にキッパリと断ち切る極卒。
夕食後の後片付けの真っ最中で、極卒と共に作業をしている目深は少々苦笑気味だ。
“同じ手に何度も何度も引っかかってたまるか”と言わんばかりの極卒であったが、國卒も諦める気はないようだ。

「じゃあコスプレとかじゃなくていいからさ!これだけ着けてくれない?」

やはり何か着せる気だったのかと呆れた顔をする極卒を尻目に、國卒は手に持っていた紙袋を漁っている。

「…兄さん。1つ質問してもいいですか?」

紙袋から出てきたものを凝視し、硬直していた極卒は溜め息を1つついて言った。
兄の返答を遮る様にした質問は

「それを僕にどうしろと言うのですか?」

だ。
傍から聞けば可笑しな質問なようにも聞こえるが、実際、この現場に直面している極卒、目深にとってはこの質問は正論だろう。

「極卒がこれを着けて、僕が豆をぶつける!楽しそうじゃないか!!」

コンビニやスーパーで売っているような可愛らしい鬼のお面。
目深は呆れたような苦笑い、極卒はマジでキレる5秒前みたいな顔をしている。

「で、何で僕なんですか?僕が鬼だとでも言いたいんですか?」

紅い瞳に怒りの炎を点し、地元のヤンキーでも怯む様な低いドスのきいた声で尋ねる。
その発言に國卒は少し慌て、訂正をした。

「いやそうじゃなくて!僕にいじめられて涙目になる極卒が見たいだ…

國卒の言葉が止まる。
口論の場は台所で、凶器になる様な物はいくらでもある。
その中で極卒は手近にあった包丁を手に取り、実の兄に向けた。
流石の國卒も意気を呑む。
何故なら

「着けてもいいですが、代わりにその目を抉り取りますよ?」

先程点ったばかりの極卒の怒りの炎が、メラメラと燃え滾っていたからだ。

「いやそれはやめてよ…ってか目とかって回復遅いの知ってるでしょーが」

焦った國卒は顔面蒼白、冷や汗ダラダラの状態で必死で極卒を止めようとするが

「知ってますよ。だからやるんじゃないですか」

とアッサリと怖いことを言い放たれてしまった兄は、
“ツンデレからヤンデレにクラスチェンジできる”
と思ったが、そんなことを言ったら確実に殺られるので、胸の内に秘めておいた。

「じゃあ誰ならいいんだよ」

豆まきだけは諦めない兄を、出来の悪い生徒を見る教師の様な目で見ながら、冷たい声、口調で、

「兄さんがやればいいじゃないですか」

と、溜め息をついた。
そして兄はと言うと…

「じゃあ目深は!?」

どうしても豆を投げたいようだ。

「往生際が悪いですよ」

「じゃあなのこ!」

「虐待で訴えてあげましょうか?」

「じゃあ…

「本当に往生際の悪い人ですね。今日は折角夜食に甘味を作ったというのに、1つ余ってしまいますね」

國卒が反応する。
甘い物好きな彼にとって、極卒の作ったお菓子禁止というのはかなり辛いものだ。
そして、しばらく考えた後

「…分かったよ。僕がやる」

と、渋々承諾した。


―――だが、この場合“やらない”という選択肢はないのだろうか。










そして少しして準備が整ったようだ。
戦場には鬼役の國卒、そしてそれを退治する役の極卒、目深、なのこの姿がある。

「兄さんは鬼らしく襲ってきてくれればいいですからね」

さっきとは打って変わって爽やかな笑顔でそう言う極卒。
その笑顔に裏があるとか疑いもしないで相槌を打ち部屋を出て行く鬼…もとい國卒。

…ガチャリ

「(極卒限定で)食べちゃうぞー!!」

なにやら裏行きになりそうな心の声が聞こえたのは無視をし、極卒は高らかに言い放った。

「全軍攻撃準備!!」

ジャキッ

「ひょっ?」

國卒が目を丸くして間抜けな声を上げる。
不吉な音と共に鬼のほうへ向けられたのは

綺麗に黒光りしている拳銃、猟師の持っているようなライフル、どこに行ってもお目にはかかれないようなマシンガンだった。

「な…なんでそんなものっそい危険なもの持っちゃってんの君らw」

鬼もパニックになり“w”とかつけちゃっている状態。
水鉄砲とかの玩具では絶対に無いような代物である。
そんな物を自分に向けられれば“w”くらいつけたくなる気持ちも分からなくはない筈だ。

「大丈夫です。中は豆ですから」

初夏の風が吹いているかのようなスッキリ爽快笑顔で言っているが、その手の中には金属光沢を放つ拳銃。

「絶対大丈夫じゃない!!だいだい何でそんなもん…

「薄紫の紙袋のお店ととあるパーティーの主催者の方々の合作です」

「そんな笑顔で言わないでよ!!ってかなんでなのこはマシンガン…

大慌てな鬼さんを尻目に、笑顔を崩さず声高らかに…

「全軍 発砲!!」

「え、いやちょっとまッ…

本気で怯える鬼さんに爽やか1000%で

「今回は僕の勝ちですね」

と言い終わると同時に3種類の銃声。
そしてその銃声を色付かせる断末魔。



この後しばらく、國卒の姿を見たものはいなかったという…













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