音 楽

□チョコの日
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ドォォン...


「あー…」









ポップンワールドの一角にあるとある一軒家。
御伽話に出てきそうな可愛らしい人形店。そのドアには“close”と書かれた看板が掛かっている。

その外装には似つかない爆発音の数テンポ後に聞こえたのは怒鳴り声。

「ユーリィィイィィイイィィ!?あんた、何やってんスか!!?」

「チョコ作り…?」

「チョコ作る時の音じゃねぇっス!!」

「…シゲキテキ?」

「強すぎるっス!!」

このまま漫才コンビとしてやっていけそうな程見事な会話だが、本人たちは至って真面目。

「また・・・もう…」

「ま、怪我がない様で、よかったじゃないですか。ね、ジズさん」

この店の主人である銀髪の青年は深い溜め息をついた。苦笑しながらフォロー(?)する前髪を苺のピンで留めた黒髪の青年。

「と、いうより…神は何故そんなに平然としていられるんですか?」

銀髪の青年、ジズは自分の右隣でチョコを溶かしている眼鏡の少年に問いかけた。

「いや、吸血鬼だしあのくらい平気だろ」

「もし、怪我していたら?」

「1人、名医がいんだろーよ」

ジズの問いに淡々と答えていくMZD。呆れた顔で無言になるジズ、極卒の2人。いまだに漫才を続ける妖怪コンビ。
そして、そんな中でも全く動じず、聞く耳持たずに一心不乱に作業を進める隻眼の少年、獄刹。

この日はバレンタインデーの前日。そこで、何人かで集まってチョコを作っているという訳だ。

日が暮れ始めた頃、ようやく片付けまで終わったようで、各々帰宅の準備をしている。

「黒ー」

「 刹。どうしたの?」

極卒の帰り支度が終わった頃、とことこと歩み寄ってきたのは、あの状態で一人黙々と作業に打ち込んでいた獄刹。
小さく手招きをして、皆から少し離れたところにきたところで、獄刹は口を開いた。

「後で、チョコクッキーの作り方教えて?」

小声でそう言う獄刹に、極卒は頭の上に?を浮かべて聞いた。

「さっき作ったのじゃ駄目なの?」

その何気ない質問に一瞬気まずそうな顔をして、うつむき黙り込んでしまう獄刹。

「……他に、あげたい人がいんの…」

ほんのり頬を赤く染め、かろうじて聞こえる小さな声で、その“あげたい人”に何か心当たりがあるのか、一瞬思いついたような顔をし、もう1つ質問を問いかける。

「でも、なんでクッキーなの?」

言葉を詰まらせる獄刹だったが、もう吹っ切れたようで相も変わらず小声で言った。

「あいつは、気付くまで時間かかるだろーから、常温で保存できた方がいいかなって思って」

その答えで、“あげたい人”の姿が見えた極卒は、ふわりと笑って返事をした。

「分かった。じゃあ帰ったら一緒に作ろうか」

すると獄刹は、さっきまでうつむいていた顔をぱっと上げて頬を赤らめ嬉しそうに礼を言った。

「よし!じゃあ買出ししてから帰ろうか」

「うん!!」








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