Novella
□落命の日、あの空の向こう
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キミはなにを願い想う。
目の前のふざけた男は私に問う。銃口をこちらへ向けられながら、彼は微笑った。
『…願いは、ただひとつ』
『想うは、大切な者といまいる居心地のよい世界』
ならばその願いはなに?と男は海の様な煌めきをもつ瞳に無邪気さを浮かべて、引き金にかけられた指にゆっくりと焦らす様に力を込めていく。
それでも…彼は微笑って言った。これからの過去と未来の為に。
『…――――』
ガウン!!!
彼は銃声を聞き、どこか安堵したような表情で、男の足元に倒れていく。ふわりとマントが舞い、彼の身体に優しく覆い被さる。
その姿に男は至極嬉しそうな相好でしゃがみこんで彼の耳元に口を近付ける。
その唇はどこか狂気を孕んでいて…。
『…ツナヨシ』
彼の名を愛しそうに囁いた。
目を開ければ、何も見えない。否、見えてはいる。
ただ光が遮られているのとそれが真っ黒なだけである。
彼は目の前にあるそれに両手をつき、目一杯に押し開いた。
太陽の光に目が眩む。
花の匂いを纏ったそれはXとボンゴレのエンブレムがかかれた、真っ黒の柩だった。
「えっ…」
琥珀の丸い瞳を揺らし、ひどく驚いた顔でそれを見つめる。まだ幼い、少年と呼んでいいほどだ。
「!!?」
その傍には銀の髪をした綺麗な顔の青年が同じように驚いた顔でその少年を見つめて、少年と目があった。
青年はとたんに悲しい目をし、少年の肩を壊れ物の様にとても優しく掴んだ。
そして青年よりも体格の細い少年の肩に青年は額を当てた。
「“Decimo…!”」
涙に濡れた擦れた声でそう一言絞りだしたように呟いた。少年には聞き慣れない言葉だが何と無く、青年が誰だか理解したように青年の背中に思わず腕を回した。
さわさわと穏やかな風が花や木々を揺らし、木陰も揺れる。優しく時間の中に青年はやるべきことを少年に伝える。
「十代目…!」
その言葉をきき、少年は確信した。この青年は自分のよく知る人物であることを。
「ごくでら…くん?」
「っ…」
少年が青年の名をいつもの様に呼べば収まった涙が再び溢れそうな青年の顔は切なかった。
「はは…獄寺くん…か…そうだ…そうでしたね」
うわごとの様に続く言葉の意味がわからず、きょとんとする少年の顔をみて青年は少し悲しさの残った笑みを浮かべた。
「気にしないで下さい、これから言うことを過去に戻ったら実行して下さい」
青年は着崩していたスーツから一枚の写真と手紙を取り出した。そして少年にとっては少し衝撃的な発言をした直前に青年は煙に包まれた。
「うわっ!」
煙の発生と共に聞こえた声に少年は安堵し、そして感極まって青年のいた場所にいる消えた青年を、小さくした容姿の見慣れた少年に飛び付いた。
「獄寺くん!」
「じゅ…十代目ぇ〜!!」
顔を赤らめて叫ぶ少年――獄寺隼人は、飛び付いてきた少年を抱き締めた。
(同じだ…獄寺くんは変わってないんだなぁ)
先ほどの青年にしたような行動に少年はそう思った。しかし抱き締めている獄寺の内に想うことは青年の彼とは全く違う。
《彼》の“十代目”は…二度と会えない、帰らぬ人となってしまったのだから。
〇〇〇
ただ獄寺にイタリア語を言わせたかっただけ