Novella

□変わりゆく
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雪の降る夜。鋭く蒼白い三日月が空から降る注がれる白の結晶を照らしている。そんな中、雪と同じくらいに白い肌を赤く染め、盃に手を伸ばし、空を見上げる男がいた。

「月をみると、不意に故郷が懐かしく思うんだ」

日本酒の入った盃を傾けた。盃の半分以上を一口で飲み干して彼はまだ香りの余韻が残るその口でぽつりと呟いた。

「そうですか…」

それに溜め息まじりの相づちを打った青年はひどく呆れた相好で、彼の盃と自分の盃に酒を継ぎ足していく。
その指に填まるインディゴの指輪から仄かに同色の炎がゆらゆらと揺れている。幻影の守護者の証を身につけた青年――六道骸。

10年ほど昔から、継ぎ足された酒を酔いを見せない面持ちで飲む青年――沢田綱吉の躰を狙い続けているのだ。味方でありながら敵の幻術師である彼は紆余曲折を得てして今は味方としておさまっている(現在10年くらい常勤中)。

「おいおい…付き合いとはいえもっと…なんかさ会話を弾ませようとかないのか」

そして今現在は
彼――沢田綱吉の気紛れに付き合わせられ(無理やりと言っても過言ではないのだが)酒を共にしているのだ。
そんな当の本人はドコ吹く風。全くもって気を遣わない上に労働もこなすように言い付けられた。

「…私に酒には風情が欲しいといい、有幻覚を使わせておいて更に何を求めるんです?」

そう、この降り注がれる雪も月も彼らの座る縁側は全て幻術によって作られた空間なのだ。
しかもボスには有幻覚は無意味に近く、まだ3D立体体感映像のが現実身を味わえる。超直感をもつボスにとっては有幻覚などはただのハリボテなのだ。
10年ほど前ならまだまだ騙せたが、現在は全く騙されないのだ。なんだかボスとは違った意味で昔が懐かしく思えてくる。

「いいじゃないか。世界に何人ともいない超優秀な幻術師の技を酒の席に堪能したって」
にんまりと笑む彼から楽しさは微塵も感じられないように思うのはきっと骸ひとりだけではないだろう。
そんな彼の言葉に骸は頭を押さえた。

「全く…なんでわざわざ部下の気力を削るような真似をするんです?そんなに風情やら故郷が恋しいのなら現地に直接行って下さい」

迷惑です!、と顔に不満と疲労をありありと出しながら骸は酒を煽った。
しばらく静寂が続いた。
さんさんと積もっていく雪も肌を刺す冷気も偽物。ここに在りはしない。

「偽物だからこそ…綺麗じゃないか」

そう囁く彼の声には酔いが含んでいた。そしてまた酒を煽り、ヒラヒラ舞う雪を手のひらを広げて捕える。彼の熱に瞬く間に白は姿を消して滴へと形を変える。
「作り物がですか?」

琥珀の瞳がオッドアイの目を射ぬく。きらきらと輝く光は、月の明かりと彼の中に本来ある純真さだと思う。それから目を反らす術はきっと皆無だ。

「…本物だろうが偽物だろうがいずれどちらも姿を無くす」

いつからだろうか
拒んでいた血を受け入れてからか
我らがボスはいつの間にかこんな目をするようになった。

元来彼の持つ、氷の性質故か
それとも…――――。

「だからこそ、綺麗なんだ」

「……随分酔いが回ってますね」


「ずいぶんだな」

またクスリと笑い酒を煽る。
本当に本当の、たまーーーーになら
こんなときも悪くない。

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