Novella
□「好きだよ」と囁いて
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深々とした空を
ベッドから眺めていた。
窓越しから見える丸く満ちた月、その淡く蒼い光はベッドで横になっている彼の白い肌を照らして、一層白く見える。
一見すると、深く寝入っているようだが彼は眠ってなどいない。
眠れないのでは無くて自分の寝室に音無く近づいてくる気配を感じて、緩やかに身を委ねていた眠りを放棄したのだ。
ギィ、と最小限に抑えられた扉の開かれる音が静寂の間に揺れる
コツコツと押し殺された靴音が己の寝台に近づく、止まったと同時に彼は目を開けた。
暗闇の中に溶け込む夜空の煌めきと獣の鋭さを持った瞳と目が合った
「…仮にも上司の部屋にノックも無しか…?」
艶の込められた響きの良い声はどこか楽しそうなものが感じられる。
目の前の黒い人は口角を釣り上げ、見慣れた笑みを見せた
「必要などないだろ?君は全部わかっているだろ…ツナヨシ」
ゾクリとする目だ。
酔っているような、甘さを含みながらも、鋭さが増した…
「随分と砕けたじゃないか…“ヒバリさん”」
10年の月日とは短いようでやはりそれなりに長いものなのだ
規則などに(不良のくせに)やたらとうるさかった人間がこうも変わるなんてな。でもよくよく見たら服はスーツ(正装)だった。ネクタイ(と第一ボタン)もかっちり締めてるし。
ツナヨシにそう呼ばれて、ヒバリはムッと少し不機嫌さを顔に表した
「わぁお、君にそう呼ばれるなんて何年ぶりかな?かなり虫酸が走るんだけど」
ヒバリは言い放った後、元々寝転がっているツナヨシに馬乗りになった。
「…ねぇ、重いんだけど…なに、今日夜這いに来た?ふざけんな、帰れ、やっぱ寝かせろ」
「僕なにも言ってないよね?」
半分キレながらも僕を退けようとしないツナヨシは何年経とうと優しい。
その優しさに付け込む輩は多いよ?…って言っても僕もその中のひとりだけどね
「恭也…ひとつ言っとく…加減し…」
「無理」
(満面の笑顔で即答かよ)
キスで言葉を奪われて
内心俺は毒づいた
「好きだよ、ツナヨシ」
(…ならさ…手加減つか、気を遣ってくれねーかな?)
と思っていても
拒絶しないツナヨシだった。