春色の軌跡
□番外編 無関心な幼馴染
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※サスケ視点。18話あたりまでのお話。
兄さんの友人の家に行くと、俺と同い年の少女がいた。
「初めまして。ヤエと言います」
3歳の時だったか。もうあまり覚えてはいないが、ずいぶん大人びている子だと思った。兄さんや、兄さんの友人のシダレさんと対等に会話を交わしていて、とても同じ年齢だと思わなかった。俺はその頃、まだヤエほど流暢に喋れなかった。
あの出会い以降、俺はよく兄さんとヤエの家や、木乃花一族の演習場に遊びに行くようになった。
ヤエはよく、難しそうな本を読んでいた。
その時は、ただ眺めているだけだと思っていたが、今思えばきちんと理解していたんだと思う。
最初は兄さん達と同世代の女の人のように思えていたが、一緒にいるにつれ、距離感も縮まっていった。
ヤエは、よくぼーっとして上の空だった。
従兄妹だという木乃花ウツギに叩かれていじめられていることもあった。
「お前、やめろよ!」
「あ?なんだコイツ」
この時、俺は、いつもぼけっとしている、ドジでチビなヤエを守ってやらなきゃと思ったんだ。
アカデミーに入学する前、ヤエは姉を亡くした。
生まれてすぐに両親が亡くなったらしいヤエにとっては、母親のような存在だっただろう。
それ以降、ぼんやりと過ごしていることがさらに多くなった。シダレさんと一緒にいる姿もあまり見なくなった。
アカデミーでは遅刻や欠席が目立ち、よく先生に注意されていた。
いつもぼやっとしているヤエを、1人でいるヤエを、俺が引っ張っていかなきゃいけないと思った。昔は姉のようだったが、この時はまるで妹のように感じていた。何にせよ、大切な幼馴染だった。
しだいに兄さん達の任務も忙しくなり、ヤエと2人だけで修行をするようになった。
クナイ投げや、組手をよく練習し、時には勝負することもあった。俺とヤエはいつも互角だった。それが俺には楽しかった。このまま俺とヤエは、一緒に強くなって、一緒に忍になるんだと思っていた。
「兄さんたち、もう始めてるかな」
この日は、兄さんとヤエの3人で修行をする約束をしていた。俺はアカデミーに残る用事があったので、遅れて演習場に向かった。
兄さんとヤエが、2人だけで修行をしている光景を目にしたのは、初めてだったかもしれない。
「ふぅ……きついな」
「いやいや、全然余裕そうじゃないですか」
「ヤエもな」
時々笑みを浮かべながらも、組手を交わすヤエと兄さんがいた。2人の動きはとても洗練されており、少しでも気を抜けば見失ってしまいそうだった。
俺と組手を交わしている時のヤエや、俺に稽古をつけてくれている時の兄さんとは全然違う。段違いの動きをしていた。
しかし、普段とは桁外れなスピードでありながらも、2人にはまだ余裕があるみたいだった。
「やっと来たか、サスケ」
「……兄さん」
兄さんが強いのは知っている。兄さんが本気を出していないとはいえ、その兄さんの動きと同等に渡り合っているヤエは一体何なんだ。ヤエもまた、余力を残している。
俺との修行は、手加減していたのか?五分五分の勝率になるようにしていたのか?
アカデミーは不真面目に手を抜いているヤエだったが、俺と修行する時は真面目に取り組んでいると思っていた。
それは全部、嘘だったのか。
「サスケ君、遅いよ」
そう言って笑うヤエ。その笑顔は本物なのか。
今、まっすぐに俺を見つめているヤエの瞳は、どこも映していないような気がした。
いつもぼんやりとしていて、ドジで、俺が守ってやらなきゃいけないヤエは、どこか抜けている不真面目な子供だったわけではない。
ただ、何に対しても、関心がなかっただけなのではないか。学校にも、家族にも……俺にも。
ヤエの本当の笑顔も、実力も、本心も、俺は何も知らないのではないか。
「サスケ君?どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
少し、考えすぎたかもしれない。
俺はヤエのことを、俺が思っているよりも理解できていないのかもしれない。
だがそれでも、ヤエは俺にとって大切な幼馴染であることには変わらない。
ヤエも俺に対して、同じように思ってくれているだろう。
そう、思っていたんだ。あの日までは。
あいつなら、俺の気持ちを分かってくれると、俺と同じ気持ちでいてくれると思っていた。
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